病院食、と聞くと、健康には良いけれども、薄味で、お世辞にも食欲をそそるとは言えない、そんなイメージが浮かびます。
なんといっても「治療食」ですから、栄養バランスが考え抜かれているに違いない。
多くの人がそう信じていることでしょう。
しかし、その「常識」をドイツの研究者たちが改めて検証しました。
彼らが取り組んだのは、ドイツ国内の病院2つと介護施設3つで提供される食事の「健康度」と、それが地球に与える「環境負荷」を徹底的に分析することでした。
健康度の評価には、米国の食事ガイドラインに基づいた「健康イーティングインデックス」と、地球と人の健康を両立させる食事法として提案されている「プラネタリー・ヘルス・ダイエット」という、2つの物差しが用いられました。
結果は、なかなかに渋いものでした。
健康イーティングインデックスのスコアは、100点満点中39〜57点。プラネタリー・ヘルス・ダイエットのスコアに至っては、150点満点中30〜44点という低さです。
具体的に見ていくと、食事の構成に大きな偏りが見られました。
理想とされる食事では、カロリーの約80%を野菜や果物、全粒穀物といった健康的な植物性食品で摂ることが推奨されていますが、調査対象の施設では、その割合が20%にも満たなかったのです。
代わりにカロリーの大部分を占めていたのは、動物性食品と、精製された穀物や砂糖、加工食品などの「不健康な」植物性食品でした。
その結果、体に必要な栄養素の供給にも問題が生じていました。
食事に含まれる飽和脂肪酸は推奨量(総カロリーの10%未満)の2倍以上、塩分も推奨される量を大きく超えていました。
一方で、食物繊維の摂取量は推奨される量の60%程度にとどまり、ビタミンB群やビタミンC、カリウム、マグネシウムといった微量栄養素は推奨値の67%以下と大幅に不足していました。
「入院したら体重が減った」という経験が、実は単に栄養不良に陥っていただけ、ということでないことを願うばかりです。
健康面だけでなく、環境への影響も看過できないものでした。
調査対象施設における環境負荷の約75%は、動物性食品に由来していました。
特に肉類は温室効果ガス排出量の約38%を占め、土地使用や水資源消費などでも最大の負荷要因でした。
一方で、環境負荷の少ない豆類の調達は、重量ベースで1%にも満たないという状況でした。
もちろん、これはドイツの特定の施設での話です。
しかし、動物性食品に偏った食事スタイルは、多くの先進国に共通する課題でもあります。
病院や介護施設の食事は、単なる栄養補給ではありません。
そこでの食事が、退院後の食生活のモデルになる可能性も秘めています。
具体的な改善策として、肉類を減らし、豆類やナッツ類、全粒穀物、野菜などを増やすことが挙げられます。
こうした取り組みは、患者さんや入居者の健康を守るだけでなく、地球全体の健康にもつながる具体的で確実な一歩となるでしょう。
参考文献:
Pörtner LM, Schlenger L, Gabrysch S, Lambrecht NJ. Dietary quality and environmental footprint of health-care foodservice: a quantitative analysis using dietary indices and lifecycle assessment data. Lancet Planet Health. 2025 Jul 23:101274. doi: 10.1016/j.lanplh.2025.05.004. Epub ahead of print. PMID: 40714023.

紹介した論文の音声概要を、NotebookLMでポッドキャスト化してみました。あわせてお楽しみください。
