唇の端にできる、小さな水ぶくれ。
多くの人が、単に「ヘルペス」と呼びますが、正式には「口唇ヘルペス」、原因は単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)の仕業です。
厄介ですが、たいていは数日で治まるため、それほど深刻に考える人は少ないかもしれません。
ところが、この身近なウイルスが、アルツハイマー病と関わりがあるかもしれない、という話があります。
2025年に発表された研究では、米国の保険請求データベースという巨大な医療記録を調査して、この関係性を探りました。
研究者たちは、アルツハイマー病と診断された約34万人の患者と、年齢や性別などの条件を揃えた健康な人々のデータを比較したのです。
その結果、アルツハイマー病群ではHSV-1の診断歴がある人の割合が0.44%、健康な対照群では0.24%と、約2倍の開きがありました。
この傾向は年齢とともに強まり、特に75歳以上の人々ではリスクが2.1倍にまで上昇していました。
さらに興味深いのは、薬の影響です。
HSV-1の診断を受けた人の中で、抗ヘルペス薬(アシクロビルなど、ウイルスの増殖を抑える薬)をきちんと使っていた人たちは、使わなかった人たちに比べて、アルツハイマー病になるリスクが17%ほど低かったのです(ハザード比0.83)。
もちろん、この研究だけで「ヘルペスがアルツハイマー病の原因だ」と断定はできません。
無症状の感染者はこのデータに含まれていませんし、あくまで症状が出て医師の診断を受けた人に限った話です。
それでも、「風が吹けば桶屋が儲かる」ではありませんが、一見すると無関係に思える出来事が、体の奥深くで意外なつながりを持っている可能性が浮かび上がります。
何気ない日常的な治療行為が、脳の健康を守る思わぬ一助になるのかもしれません。
そう考えると、日々の小さな選択も、少し違った景色に見えてくるものです。
参考文献:
Liu Y, Johnston C, Jarousse N, Fletcher SP, Iqbal S. Association between herpes simplex virus type 1 and the risk of Alzheimer’s disease: a retrospective case-control study. BMJ Open. 2025 May 20;15(5):e093946. doi: 10.1136/bmjopen-2024-093946. PMID: 40393802; PMCID: PMC12104942.

紹介した論文の音声概要を、NotebookLMでポッドキャスト化してみました。あわせてお楽しみください。
