仕事で疲れた帰り道、ふとコンビニに立ち寄り、甘いものに手が伸びる。
ケーキやチョコレートに惹かれ、気づけばお菓子が止まらなくなっている。
この日常的な一場面は、脳が仕掛けた「甘い罠」の始まりかもしれません。
2014年に公開されたオーストラリアの映画『あまくない砂糖の話』では、監督のデイモン・ガモー氏が自らの身体を実験台にして、興味深い試みを行いました。
彼は60日間、一般的にヘルシーとされるシリアルやヨーグルト、フルーツジュースなどの食品だけから、オーストラリア人の平均摂取量である1日ティースプーン40杯分の砂糖を摂取し続けました。
重要なのは、ジャンクフードや「いかにも」な甘いお菓子ではなく、あくまで健康食品から砂糖を摂るという点です。
その結果、砂糖が心身に及ぼす影響や、私たちが日常的に口にする食品に潜む砂糖の危険性が浮き彫りになりました。
糖分がもたらす喜びは脳の報酬系に深く関わっています。
砂糖を摂取すると、脳内のドーパミンという快楽物質が一気に放出されます。
これが甘さの喜びや満足感を生み出すわけですが、問題はその先にあります。
慢性的に糖分を摂り続けると、ドーパミンの放出量や反応性が鈍くなり、さらに多くの砂糖を欲するようになります。
この仕組みは麻薬などへの依存と非常に似ているのです。
糖への依存が進むと、脳の構造そのものにも変化が生じます。
とくに影響を受けるのが記憶や学習に深く関わる「海馬」と、自己制御を司る「前頭前野」。
糖を過剰に摂り続けることで、海馬では記憶や学習能力の低下が見られ、前頭前野では自己抑制が効かなくなってしまいます。
結果的に糖分摂取の悪循環に陥るのです。
糖分の過剰摂取は、脳だけでなく体にも深刻な影響を及ぼします。
肥満や糖尿病、心血管疾患のリスクを著しく高めることが分かっており、砂糖入りの飲料を毎日摂取する女性では、関節リウマチの発症リスクも高まるという報告もあります。
長期的な摂取は体内で炎症を引き起こし、静かに身体を蝕んでいくのです。
それでは、糖依存症にどう向き合えばよいのでしょうか。
薬による治療も研究されていますが、やはり重要なのは心理的な介入です。
認知行動療法などを通じて、砂糖に対する考え方や行動を少しずつ変えていく方法が有効とされています。
小さな目標を立てて達成感を得たり、甘いものを食べる代わりに散歩や趣味の時間を持つなどの工夫が推奨されています。
砂糖を完全に悪者扱いするのではなく、その正体を知り、適度な距離感で付き合っていく。
結局のところ、何事も「過ぎたるは猶及ばざるが如し」です。
甘さも苦さも人生の味わいとして、ほどよく取り入れていくのが最も大切だということですね。
参考文献:
Qin D, Qi J, Shi F, Guo Z, Li H. About Sugar Addiction. Brain Behav. 2025 Jul;15(7):e70338. doi: 10.1002/brb3.70338. PMID: 40654193; PMCID: PMC12257121.

紹介した論文の音声概要を、NotebookLMでポッドキャスト化してみました。あわせてお楽しみください。
