人生の成功は、よく一直線の階段を駆け上がるようなイメージで語られます。
次のステップへ、そしてさらにその先へと計画的に進んでいく―それが当然と考えられがちです。
ところが、この計画性が行き過ぎると、ときに私たちを追い詰めてしまうことがあります。
神経科学者であり起業家でもあるアンヌ=ロール・ル・カンフさんは、かつてGoogleの社員でした。
そこでは毎日が競争の連続で、「自分は本当にここにいて良いのか」といった不安が常につきまといました。
不安を打ち消そうと仕事を過剰に引き受け、スケジュールをびっしり埋める日々を送った結果、彼女はある日突然、腕が紫色に腫れあがり、血栓が肺へと流れる危険性が判明しました。
驚いたことに、医師が緊急手術を促すなか、彼女は真っ先にカレンダーをチェックして仕事のスケジュールを確認したと言います。
この出来事を機に、彼女は考え方を根本から変えました。
人生を直線的な計画ではなく、「小さな実験」の積み重ねと捉え直したのです。
科学者が未知の現象を前にして「面白いな」と感じるように、私たちもまた、未知や不安を「失敗」として避けるのではなく、好奇心の対象として受け入れることが大切だと彼女は説きます。
実は私たちの脳は、情報を収集し、仮説を立て、それを検証するという「実験的な思考」を自然に備えています。
ところが、不確実性に対する本能的な恐怖が、この自然な学習サイクルを妨げ、私たちを「失敗=悪」という狭い思考に閉じ込めてしまうのです。
そこで、彼女が提唱するのが「小さな実験(Tiny Experiments)」という考え方です。
これは、具体的な行動とその期間をあらかじめ決めることで、「成功か失敗か」ではなく「何を学べるか」に焦点をあてる方法です。
期間を決めることで偶然の結果に惑わされず、冷静に効果を検証できます。
たとえば、毎日20分散歩する、10日間毎日1分間だけ動画を撮影して公開するなど、小さな約束を自分と交わします。
こうすることで、私たちは失敗を恐れることなく、実際に行動を起こせるようになります。
さらに、この小さな実験をチームや組織に取り入れることで、失敗や不安を隠さず共有し、お互いが学び合う「好奇心の文化」が育まれます。
たとえば、月に一度「実験共有会」を開催し、それぞれが行った実験の成果や学びを話し合うのです。
成功を「特定の結果を出すこと」ではなく「新しいことを学ぶこと」に再定義すれば、ストレスや不安を感じることなく、より創造的で柔軟な生き方が可能になるでしょう。
ル・カンフさんの体験は、成功や計画という概念を根底から問い直すきっかけとなります。
「小さな実験」を通じて、人生を少し違った角度から眺め、新しい発見と成長の可能性を見つけるために、まずは身近なことから小さな実験を始めてみるのはいかがでしょう。

紹介した論文の音声概要を、NotebookLMでポッドキャスト化してみました。あわせてお楽しみください。
