イギリスに学ぶ終末期医療―慎重さの光と影

イギリスに学ぶ終末期医療―慎重さの光と影

 

高齢化が進むにつれて、「人生の終盤にどれほどの治療を受けるべきか」という問題は重要です。

特に米国では(日本でも)、高齢者や認知症の進んだ方に対しても、積極的に人工呼吸器や集中治療室(ICU)での高度医療が行われる傾向があります。

実際、イギリスに比べて米国の高齢者のICU利用率は約2倍高く、人工呼吸器の使用率も高いと報告されています。

ただし、こうした医療が必ずしも患者本人の望むものや、有益なものとは限りません。

 

イギリスは、対照的に治療の過剰な拡大を避ける傾向があると言われています。

この違いの背景を探るために、イギリス南ロンドンの病院で医師や看護師、また認知症の家族をケアする介護者にインタビューを行った研究があります。

この研究からは、患者や家族が十分な情報を得て納得できるよう、医療者が丁寧で明確なコミュニケーションを取っていることが明らかになりました。

また、認知症の進行具合について家族が正しく理解していることが、過剰な治療を避けるための重要な要素でした。

 

制度や仕組みも、重要な役割を果たしています。

イギリスでは、病院に入る前の段階で専門家が総合評価を行い、地域でのケアを継続する仕組みがあります。

救急時でも事前のケアプランに基づいて、患者の希望に沿った対応が行われます。

医療者が治療の適切なレベルをあらかじめ設定しておく制度も整っています。

 

さらに、法的な枠組みが医師主導で「患者にとって最善の利益」を考えることを明確にしています。

患者や家族が「より高度な治療を」と望んだとしても、医学的に適切でない場合には医師が丁寧に説明し、必要以上の治療を避ける権限があります。

 

一方で、こうした慎重な姿勢は、患者の治療機会を逃すリスクもはらんでいます。

例えば、ある家族は、「母親が呼吸器系の治療を受ければ回復できたかもしれないのに、医師が早期に治療を諦めてしまった」と感じたと語っています。

限られた医療資源のなかで、どのようにバランスを取るべきかという課題も浮き彫りになりました。

 

人生の終わり方を考えることは簡単ではありません。

しかし、患者や家族、医療者が共通の理解を持ち、繰り返し対話を重ねていくことが、患者自身が望む最期を迎えるための道筋になるのだと思います。

 

参考文献:

Weiss Goitiandia S, Sun AZ, Rosenwohl-Mack A, et al. Systemic Strategies to Prevent Nonbeneficial Treatments Near the End of Life. JAMA Netw Open. 2025;8(7):e2519771. doi:10.1001/jamanetworkopen.2025.19771

 

 

紹介した論文の音声概要を、NotebookLMでポッドキャスト化してみました。あわせてお楽しみください。