どんな音楽を聞こうか。普通は曲そのものに意識が向きます。
ラジオでもスマートフォンでも、音楽を聴く手段にそれほど違いがあるとは思えないかもしれませんが、実はそう単純な話でもないようです。
英国レディング大学の研究チームは、なかなか面白い視点で研究を行いました。
認知症と診断された55人と、そうでない66人の高齢者を対象に、「音楽をどのデバイスで聴いているか」を尋ね、その人の心理状態―特に同じことを繰り返し考え続ける「反すう思考」との関連を調べたのです。
その発想は少し奇抜に感じますが、結果は予想を軽く裏切りました。
まず、音楽を聴く際に多くの参加者が選んでいたのは、ラジオやCDプレーヤーといった「音楽専用」の機器でした。
スマートフォンやパソコンなどの多機能なデバイスよりも、はるかに人気があったのです。
音楽を聴く頻度も高く、両グループの約7割が「時々」または「ほとんど毎日」音楽を楽しんでいました。
ここからが肝心なポイントです。
認知症のないグループでは、音楽を聴くために複数の機器を使う人ほど、うつのスコアが高いという関係が見つかりました。
便利なデジタル機器が必ずしも心を軽くするわけではない、少し意外な結果です。
一方、認知症のあるグループでは状況が違っていました。
うつではなく反すう思考との関連が明確に示され、多機能デバイスを使うほど反すう思考が強くなり、逆に音楽専用機器を使うほど、その傾向が弱まるというものでした。
なぜこうした違いが生まれるのでしょうか。
研究者たちは慎重に推測していますが、ひとつの可能性としてデバイスの性質を挙げています。
多機能デバイスは音楽以外にもさまざまな情報を提供し、注意を分散させます。
それに対して音楽専用の機器は、ただひたすら音を届けるだけ。そのシンプルさが、頭の中の「ぐるぐる」をそっと落ち着かせているのかもしれません。
「音楽をどのデバイスで聴くか」というさりげない選択が、実は心の状態に影響している可能性があります。
私たちが無意識に手に取る音楽デバイスは、心の深層を映し出す鏡になっているかも知れません。
参考文献:
Greenaway, A. M., Hwang, F., Nasuto, S., & Ho, A. K. (2025). Spontaneous music listening in dementia: relationships between listening device and rumination but not depression, anxiety and listening frequency. Cogent Gerontology, 4(1). https://doi.org/10.1080/28324897.2025.2525763

紹介した論文の音声概要を、NotebookLMでポッドキャスト化してみました。あわせてお楽しみください。
