他人が痛がるのをなぜ笑ってしまうのか―シャーデンフロイデの科学

他人が痛がるのをなぜ笑ってしまうのか―シャーデンフロイデの科学

 

ジャン=ジャック・アノー監督の映画『人類創世』に印象的なシーンがあります。

この映画は、人類がまだ原始的な生活を送っていた時代をコミカルに描いた作品で、言葉のない世界で人間の本能や行動をユーモラスに表現しました。

その中で、木の上から偶然何かが落ちてきて、仲間の一人の頭に命中します。

痛みに顔をゆがめる彼の姿を見て、周囲の仲間たちは思わず笑い出します。

このシーンは、人類におけるユーモアの芽生えや他者の痛みに対する客観的な視点を描いているとも言われています。

この少し意地悪な笑いは、実は誰にでも起こりうる心理現象なのです。

ドイツ語では「シャーデンフロイデ」と呼ばれ、「他人の不幸は蜜の味」と訳されます。

 

最近、この少々困った感情を、筋電図という機器を使って精密に調べた研究がありました。

 

43名の参加者は、ゲームで対戦相手と競争します。

ところが実際には仕組まれていて、必ず半分の試合で負けるように設定されています。

対戦相手には、大きな騒音で意地悪をしてくる「挑発的な相手」と、特に意地悪をしない「非挑発的な相手」がいました。

ゲーム後、コンピューターが相手に騒音を与え、その苦痛を参加者は画面越しに見る仕組みです。

 

興味深いことに、挑発的な相手が苦痛で顔をゆがめる姿を見た時、参加者は頬や目元の筋肉(微笑む時に動く筋肉)の活動が増えました。

一方で眉間にシワを寄せる筋肉(不快感を示す筋肉)の活動は減りました。

つまり、挑発的な相手が痛がる様子を見て、無意識に「ニヤリ」としてしまったのです。

 

対照的に、非挑発的な相手が痛がる様子を見た場合、参加者は眉間にシワを寄せて不快感を示しました。

これは他者の痛みに共感した結果でしょう。

 

つまりシャーデンフロイデとは、単に勝利の喜びではなく、「嫌な相手が苦しむ姿を見ること」自体に反応して起こる感情なのです。

人間の脳はどうやら「天罰が下る瞬間」を好む傾向があるようです。

虐げられてきた主人公が、最後には勝利する「勧善懲悪」をデフォルトとした映画が長い間定番の人気があったのは、このせいなのでしょう。

 

とはいえ、相手が痛がるのを見てニヤつく姿はあまり美しいものではありません。

自分の中に小さな悪魔がいることに気付いて、内心少しばつが悪くなることもあるでしょう。

ですがそんな感情を完全に否定するより、小さな悪魔とうまく折り合いをつけるほうが、もしかしたら社会のさまざまなトラブルを減らす一歩になるかもしれません。

 

何しろ、木の上から何かが落ちてきて、いつ自分が笑われる側になるかわからないのですから。

 

参考文献:

Dyduch-Hazar K, Mitschke V, Eder AB. Smiling after witnessing provocateur’s suffering: a facial electromyography study. Cogn Emot. Published online June 26, 2025. doi:10.1080/02699931.2025.2515235

 

 

紹介した論文の音声概要を、NotebookLMでポッドキャスト化してみました。あわせてお楽しみください。