大人になると、職場の健診や自治体の健康診断などで、毎年血糖値をチェックする機会が訪れます。
自分の血糖値が基準値上限に近づくのを見て、「まだ糖尿病じゃないから」と安心したり、それでも不安になって生活を改めたり。
これはきっと、誰もが身に覚えのある正直な反応で、年に一度の検査結果に一喜一憂することになります。
それで、血糖値の推移が実際のところどうなのか、30年もの追跡調査から見えてきた現実は、思った以上に多様で、実に奥深いものでした。
この研究はアメリカの大規模コホート研究「CARDIA研究」で行われました。
1985年から18~30歳の若年成人4684人を対象に、30年間にわたって空腹時血糖値を測定した結果、1278もの異なる血糖値の変動パターンが存在しました。
血糖値の変動パターンはおおよそ9つに分類できるもので、例えば、若年期から安定して正常血糖値を保つタイプ、若い頃に一度高めになった後に正常値に戻るタイプ、若い頃からずっと境界型糖尿病のまま安定しているタイプなどがありました。
一般的なイメージでは、糖尿病になるのは、正常血糖値から境界型糖尿病(いわゆる糖尿病予備群)をたどる「お決まりのコース」を想像しますが、実際は少し違っていました。
若いうちに軽い境界型糖尿病になったグループは、その後30年間ほとんど糖尿病へ進行せず、むしろ正常血糖に戻ったり、境界型のまま安定していたのです。
一方で、若年期や中年期に糖尿病と診断されたグループは、予備群を経ることなく正常血糖から直接糖尿病に移行するケースが目立ちました。
特に30歳代半ばで糖尿病を発症した人々の約55%が境界型糖尿病を経ていませんでした。
若年期の境界型糖尿病が必ずしも糖尿病発症を予告するわけではなく、逆に正常だった人が中年以降に突然糖尿病を発症することもあります。
従来の糖尿病予防戦略は主に中年以降のデータを基に作られているため、そのまま若年層に適用するのは不適切だといえそうです。
新たな視点で若者のリスクを評価し、それぞれの年代やリスクに応じた柔軟な対応が必要となっています。
血糖値の推移も人生のように予測不能で、ちょっとばかり哲学的な気持ちになりますね。
「一度数値が上がったらもうダメ」と悲観する必要はありませんし、「まだ若いから大丈夫」と油断するのもよくありません。
これからは、自分の体をもっと深く理解し、柔軟に対応するための具体的な一歩を踏み出してみるのも良いかもしれません。
参考文献:
Arons ARO, Pacca L, Jacobs DR, Vable A, Schillinger D. Thirty-Year Glycemic Trajectories From Young Adulthood Through Middle Age. JAMA Netw Open. 2025;8(6):e2517455. doi:10.1001/jamanetworkopen.2025.17455

紹介した論文の音声概要を、NotebookLMでポッドキャスト化してみました。あわせてお楽しみください。
