外見で年齢がわからない、そんな人に出会うことがあります。
若々しく見えるのならまだしも、逆の場合にはちょっとしたショックもありますね。
しかし、本当の年齢、つまり私たちの体の中の細胞レベルの年齢を知ることができたらどうでしょう。
それを可能にするのが「CheekAge(頬年齢)」という新たな細胞時計です。
エピジェネティック時計とは、DNAの特定の場所に起きる化学的な変化(メチル化)を調べ、実際にどれくらい老化しているのかを測定する方法です。
細胞はすべて同じDNAという設計図を持っていますが、心臓や皮膚といった異なる役割を持つ細胞になるのは、設計図のどの部分を「オン」にし、どの部分を「オフ」にするかを決める「DNAメチル化」という仕組みが働いているからです。
例えば、同じ楽譜を持っていても演奏方法が異なれば全く違う音楽が生まれるように、DNAもメチル化によってさまざまな細胞を作り出しているのです。
年齢を重ねるにつれ、このメチル化の精度が少しずつ落ちてきます。
本来オンになるべきではない遺伝子がオンになったり、その逆も起こります。
この現象を「エピジェネティックドリフト」と呼び、エピジェネティック時計はその度合いを測定しているのです。
「CheekAge」は、頬の粘膜の内側から採取される細胞のDNAメチル化を分析することで、細胞の「生物学的な年齢」を推定します。
今回の研究では、1921年と1936年生まれのスコットランドの長期的な研究対象者を用い、このCheekAgeが寿命の予測に有効かどうかを調べました。
その結果、CheekAgeが1標準偏差増加するごとに死亡リスクが21%上昇することが示されました。
特に、CheekAgeが3標準偏差以上高い人たちは、低い人たちと比べて約2.5倍も死亡リスクが高いというデータが得られました。
驚くことに、この「頬の細胞」の時計は、従来の血液を用いたエピジェネティック時計と同等か、それ以上の精度で寿命を予測していました。
さらに、この研究では寿命との関連が特に強かったDNAメチル化の部位(CpGサイト)も特定されています。
その中でも、ALPK2という遺伝子に関連する特定のCpGサイトが最も重要でした。
このCpGサイトを除外すると、寿命との関連性の統計的な有意性が約3倍弱まりました。
ALPK2遺伝子は心臓や筋肉の正常な働きを支える重要なタンパク質を作り出しており、その異常は心疾患やがんなど多くの病気のリスクに関連すると考えられています。
日本でも、エピジェネティック時計を活用した生物学的年齢の検査が徐々に注目されてきています。
ただし、まだ一般的な健康診断には取り入れられておらず、保険適用もされていないため、一般の人がすぐに検査を受けられる状況ではありません。
しかし、健康意識の高まりとともに今後さらに広がっていく可能性があります。
この研究が示すことは単純明快です。
頬の粘膜から採れる手軽なサンプルでも、私たちの体の深いところにある生物学的年齢や健康リスクを知る手がかりが詰まっているということです。
外見の若さももちろん嬉しいものですが、本当の健康寿命を伸ばすためには、細胞レベルでの年齢を知り、それをもとに健康的な生活を心がけることが次の一歩かもしれません。
参考文献:
Shokhirev MN, Kramer DJ, Corley J, Cox SR, Cuellar TL, Johnson AA. CheekAge, a next-generation epigenetic buccal clock, is predictive of mortality in human blood. Front Aging. 2024;5:1460360. Published 2024 Oct 1. doi:10.3389/fragi.2024.1460360

紹介した論文の音声概要を、NotebookLMでポッドキャスト化してみました。あわせてお楽しみください。
