私たちの体内時計(概日リズム)は日々、光を基準にして正確なリズムを刻んでいます。
つまり、朝に浴びた太陽の光が、私たちの1日の基準点をリセットしてくれるのです。
時計といってもチクタク音を立てるわけではなく、脳の視交叉上核(SCN)という小さな領域が司令塔となって、毎日の睡眠や活動のリズムを整えています。
ところが、この時計が時には不意打ちのような刺激によってズレてしまうことが分かっています。
特に注目されるのは、「ストレス」が時計の針を乱してしまうということです。
徹夜明けの後、体がどこか調子が狂うあの感覚を覚えたことは誰しもあるでしょう。
最近の研究では、マウスを使ってストレスが体内時計に及ぼす影響を詳しく調べています。
マウスは夜行性であり、人間とは活動する時間帯が異なりますが、この研究は体内時計が環境の刺激にどのように反応するかを理解するための重要な手がかりとなります。
興味深いことに、マウスに対して足への電気刺激や強制的な水泳などのストレスが加わると、体内時計が遅れることが確認されました。
そのズレはおよそ0.4時間、つまり約24分程度ですが、私たち人間に置き換えてみると、その影響は決して無視できるものではありません。
この現象の主役となるのが、視床の前部にある前頭室傍核(aPVT)という脳の領域です。
aPVTはストレスに敏感な神経回路を通じてSCNに信号を送り、時計のリズムを調整します。
興味深いのは、光は状況に応じて時計を進めたり遅らせたり柔軟に動かすのに対し、ストレスは決まって時計を「遅らせる」方向にのみ働くということです。
さらにこの研究では、SCN内にも明確な役割分担があることが示されました。
ストレスは主にAVP(アルギニンバソプレシン)という神経伝達物質を放出するSCNの外層の細胞を活性化し、光はVIP(血管作動性腸管ペプチド)を放出する中心部の細胞を刺激します。
SCNという同じ「オフィス」内でも、それぞれ担当する部署が異なっているわけです。
さらに興味深いのは、夜間(マウスの活動期)に光とストレスが同時に加わると、時間帯によって体内時計の反応が異なることです。
夜間の早い時間にストレスが加わると、時計の遅れが大きくなります。
具体的には、活動開始のタイミングが通常より遅くなり、一日の活動リズム全体が後ろ倒しになります。
一方、夜間の遅い時間に光が加わると本来は時計が進むはずですが、ストレスがその進みを妨げてしまいます。
このように私たちの体内時計は、状況に応じて複雑な調整をしています。
生物学的に見ると、ストレスで時計が遅れるのは、活動を一時的に控えて周囲の危険を避け、安全を確かめてから活動を再開するための適応的な仕組みとも考えられます。
ストレスが私たちの心身に与える影響は、体内時計のレベルにまで及んでいるのです。
この発見は、ストレスによる不調と睡眠の問題のつながりを理解するための大切な手がかりとなります。
私たちの体内時計は、外界の環境から得た情報を活用し、生体の恒常性を保とうとしているのです。
そう考えると、自分自身の体調や心の状態をもっと丁寧にいたわりたくなります。
日々の生活の中でストレスにさらされることは避けられないかもしれません。
でも、そんな時こそ、朝、早起きをして太陽の光を浴びることは大切なんですね。
私たちの概日リズムを取り戻すためにも。
参考文献:
Yurgel ME, Gao C, O’Malley JJ, et al. A stress-sensing circuit signals to the central pacemaker to reprogram circadian rhythms. Sci Adv. 2025;11(25):eadr7960. doi:10.1126/sciadv.adr7960

紹介した論文の音声概要を、NotebookLMでポッドキャスト化してみました。あわせてお楽しみください。
