私たち人間は甘い果物が大好きです。完熟したマンゴーなどは特に大層なごちそうです。
一方で、鳥たちは熟する前の酸っぱい果物でも平気な顔でついばみます。
熟するのを楽しみにしていたバンシルー(グァバ)の実が、いつの間にか鳥たちにつつかれて穴だらけになっているのを見ると、悔しいのと「もう少し待てば美味しいのに!酸っぱいだろうに!」と不思議に思います。
実際、シークワーサーのように私たちが眉をひそめるほど酸味の強い果物でも、鳥たちにとっては美味しいごちそうのようです。
この不思議な食性の謎が、最近の研究で解き明かされました。
鍵となるのは、酸味を感知するための味覚受容体「OTOP1」です。
私たち人間を含む哺乳類では、酸味が強くなるにつれてこの受容体が活性化し、「酸っぱい!」と感じる仕組みになっています。
しかしハトやカナリアなどの鳥類では、レモン程度の強い酸性環境下で、この受容体の働きが抑えられてしまうのです。
つまり、鳥たちは一定以上の酸味を感じにくくなり、その結果、他の動物が避ける酸っぱい果物も問題なく食べられるというわけです。
研究者たちがさらに詳しく調べると、この酸味耐性の秘密は遺伝子にコードされたわずか1つのアミノ酸(G378)の違いにありました。
この遺伝子変異が鳥類の祖先に現れたのは、およそ3400万年から2300万年前と推定されています。
また、この変異は甘味を感じる能力の進化とも関連している可能性があるとのことです。
酸っぱい果実を食べる能力は、鳥たちにとって大きなメリットをもたらしました。
哺乳類と食料を奪い合うことなく独自の食料源を確保でき、特に渡り鳥にとっては長距離移動中の貴重なエネルギー源となっています。
一方で植物も鳥たちに果実を食べてもらうことで、種子を遠くまで運んでもらえるという利点があります。
鳥たちが木々の枝で酸っぱい果物を平気でついばむ姿は、生き生きとした地球の営みを象徴しています。
酸味への特別な耐性という進化の妙は、鳥類が世界各地に広く分布し、1万種を超える多様な種を生み出す原動力となりました。
もしかすると、誰もが尻込みするような激辛料理を平然と楽しむ人も、鳥たちのように特殊な遺伝子を持った生存戦略の勝ち組なのかもしれませんね。
参考文献:
Zhang H, Luo L, Liang Q, et al. Molecular evolution of sour tolerance in birds. Science. 2025;388(6753):1330-1336. doi:10.1126/science.adr7946

紹介した論文の音声概要を、NotebookLMでポッドキャスト化してみました。あわせてお楽しみください。
