赤ちゃんは不思議です。
何を好むのか、なぜそれを気に入るのか、はっきりした理由を見つけるのはなかなか難しいものです。
ただ、歌だけは例外のようで、子守唄だろうが鼻歌だろうが、赤ちゃんは不思議と心地よさそうに耳を傾けます。
これは世界中どこでも同じことで、多くの親が自然に体験しています。
そこで、その歌声が実際に赤ちゃんの気分にどの程度影響するのかを、イェール大学の研究チームが興味深い方法で探りました。
2023年に行われたこの研究では、生後3.7か月ほどの赤ちゃん110名とその親が参加しました。
スマートフォンを使って日々の気分や行動を細かく記録する、「生態学的瞬間評価(EMA)」という手法が使われました。
参加者は2つのグループに分けられ、一方のグループは新しい歌を覚えるためのビデオや赤ちゃんが喜ぶ歌の絵本を提供され、日常的に歌を歌うことが推奨されました。
もう一方のグループは特別な指示を与えられず、普段どおりの生活を送りました。
結果として、歌うよう勧められた親たちは実際に歌う頻度が著しく増加しました。
特に赤ちゃんがぐずったときに歌であやす割合は19パーセントポイントも上昇し、日常の中で赤ちゃんに向けて歌う頻度も65%から89%へと大幅に増えました。
さらに興味深いのは、歌をよく聴いた赤ちゃんたちの気分が目に見えて改善されたことです。
対照グループに比べ統計的にもはっきりとした違いが見られ、気分評価は介入後に0.18標準偏差ほど高まりました。
しかしながら、親自身の気分には特段の変化がありませんでした。
その理由としては、この短期間の介入では赤ちゃんの気分の改善が親自身のストレス軽減に直接つながるまでには至らなかったのかもしれません。
また、親のストレスや育児疲れは、他にも多くの要因が絡み合っているため、歌だけですぐに解決できるものではないのかもしれません。
この研究から見えてくるのは、親が何気なく口ずさむ歌が赤ちゃんにとって思いのほか大切であるということです。
特別な道具や高価な教材は不要です。
長期的に歌を日常に取り入れることで、赤ちゃんだけでなく、家庭全体の雰囲気がさらに明るくなる可能性もあるでしょう。
親が気楽に口ずさむ歌は、思った以上に家族の幸せに貢献しているのかもしれません。
台所で自然に歌いだすメロディーが、家族をつなぐあたたかな記憶になる日も、きっと訪れるのでしょうね。
参考文献:
Cho E, Yurdum L, Ebinne E, et al. Ecological Momentary Assessment Reveals Causal Effects of Music Enrichment on Infant Mood. Child Dev. Published online May 28, 2025. doi:10.1111/cdev.14246

紹介した論文の音声概要を、NotebookLMでポッドキャスト化してみました。あわせてお楽しみください。