目を閉じてぼんやりとまどろむ。
まぶたの裏に浮かぶのは曖昧な映像や奇妙なアイデア。
実は、このぼんやりした状態がクリエイティブな発想の宝庫だという、ちょっと魅力的な研究があります。
発明家トーマス・エジソンは、うたた寝をする際に鉄の玉を手に握っていたそうです。
眠りに落ちて玉が床に転がり落ちる音で目を覚まし、眠りの淵で得たアイデアを書き留めるためだった、と伝えられています。
そんなエジソンの逸話を、フランスの研究チームが科学的に検証しました。
参加者103人に与えられたのは、一見すると複雑な数字のパズル。
実はこれには簡単な隠しルールがあり、それに気づけば格段に速く解ける仕組みでした。
その後、参加者は20分間、薄暗い部屋で目を閉じてリラックス。
エジソンに倣い、手にペットボトルを握っていました。鉄の玉ではなくペットボトルが選ばれたのは、安全で軽く、落ちても危険が少ないためです。
ペットボトルが落ちる音で浅い眠りの瞬間を逃さないための現代版エジソン方式と言えるでしょう。
睡眠にはレム睡眠とノンレム睡眠という二つの種類があります。
レム睡眠は目の急速な動きを伴い、夢を見ることが多い睡眠段階です。
一方、ノンレム睡眠は深度によって段階があり、浅い眠りのN1から深い眠りのN3まで分類されます。
脳波を観察すると、不思議な結果が現れました。15秒以上でも浅い眠り(ノンレム睡眠の最も浅い段階であるN1睡眠)を経験した人の83%が隠れたルールを見つけました。
対して、目を覚ましたままだった人はわずか30%。
さらにより深い眠り(ノンレム睡眠のN2睡眠)に達した人では14%という低さでした。
N1睡眠(ノンレム睡眠の第一段階)とは、意識と無意識の境界線上で、ふわりとした夢や断片的な思考が浮かぶ、半覚醒の状態です。
まさにエジソンが狙った創造性のスイートスポットと言えるでしょう。
脳波の分析によれば、中程度のアルファ波はリラックス状態を示し、低いデルタ波は深い眠りに移行する兆候。
つまり、適度なリラックスと深すぎない眠りのバランスが重要だったのです。
この研究が示しているのは、創造性を引き出す理想的な状態は、完全に目覚めているわけでもなく、深く眠っているわけでもない微妙なバランスの中にある、ということです。
少し眠気を感じたら、エジソンのようにペットボトルを一本手に握ってみてはいかがでしょう。
目覚めるか、眠るか、その曖昧な境界線の中で、ひらめきがそっと手招きしているのかもしれません。
そんな私は、ペットボトルが大きな音を立てようが、そのまま深い眠りに落ちる自信だけは誰にも負けません。
参考文献:
Lacaux C, Andrillon T, Bastoul C, et al. Sleep onset is a creative sweet spot. Sci Adv. 2021;7(50):eabj5866. doi:10.1126/sciadv.abj5866

紹介した論文の音声概要を、NotebookLMでポッドキャスト化してみました。あわせてお楽しみください。