歳をとるということは、ヴィンテージワインが静かに熟成していくようなものかもしれません。
ただ、ときにはそのコルクが予想よりも早く緩んでしまうように、人生にも予想外のことが起きてしまうことがあります。
そんなとき、「認知症」という言葉がふと頭をかすめると、やはり心は重くなってしまうものです。
最近、少し興味深い研究を目にしました。
アメリカ、ヨーロッパ、イギリスの3地域で1994年から2021年にかけて約10万人を対象に行われた調査によると、最近生まれた世代ほど、同じ年齢でも認知症になる割合が少なくなっていることが分かったのです。
具体的には、アメリカでは81〜85歳の人で1890〜1913年生まれの認知症割合が25.1%だったのに対し、1939〜1943年生まれでは15.5%に減少しました。
ヨーロッパやイギリスでも同様の傾向が見られ、特に女性の場合は顕著で、イギリスでは1944〜1948年生まれの女性は、1919〜1923年生まれと比べて認知症リスクが約76%も低下していました。
新しい世代で認知症が減少した理由としては、医療技術の進歩や健康意識の向上、生活習慣の改善が考えられます。
また女性の認知症リスク低下には、教育の普及や社会進出の進展による脳の活性化や健康管理へのアクセスの改善が影響しているのかもしれません。
ただし、これらだけで明確な答えを出すのは容易ではありません。
とはいえ、この研究はささやかながら希望の灯りを示しているようにも思えます。
認知症という課題に社会が丁寧に取り組んだ成果が少しずつ現れているのかも知れません。
人生の旅路をゆっくりと歩みながら、私たちは過去の世代の経験を穏やかに受け止めつつ、より豊かな歳月を重ねる方法を見つけつつあるのだと信じたいです。
静かな午後にグラスを傾けるように、じっくりと人生を味わえるように。
参考文献:
Dou X, Lenzen S, Connelly LB, Lin R. Generational Differences in Age-Specific Dementia Prevalence Rates. JAMA Netw Open. 2025;8(6):e2513384. doi:10.1001/jamanetworkopen.2025.13384

紹介した論文の音声概要を、NotebookLMでポッドキャスト化してみました。あわせてお楽しみください。