ショート動画の迷宮―その入り口は、意外と心の奥深くにあるのかもしれない

ショート動画の迷宮―その入り口は、意外と心の奥深くにあるのかもしれない

 

気がつくと、いつの間にか時間が溶けてしまっている。

スマートフォンの画面に映るショート動画を無心に眺めながら、ふとそんな感覚に襲われます。

手軽さと刺激が妙に心地よく、指先は画面を滑るように次の動画を探し続けます。

でも、この無害に見える習慣の裏に、実は深い心の傷が隠れているのかもしれません。

 

中国の大学生を対象にした最近の研究によると、幼い頃に経験したトラウマとショート動画への依存傾向には密かな関連があるそうです。

特に「感情的な虐待」や「身体的なネグレクト」―つまり、言葉の攻撃や無視、基本的な世話の不足など―といった経験がある人ほど、ショート動画にのめり込みやすいというのです。

意外に感じるかもしれませんが、元々依存のリスクが低い人でも、「情緒的ネグレクト」という心の渇きが、この依存を静かに育てている場合があるそうです。

 

でも、どうして過去の経験が今の私たちをこんなにも動かしてしまうのでしょうか。

その答えは、脳の奥深くにあるらしいのです。

MRIで撮影した脳の画像によれば、ショート動画に強く依存している人の脳では、「背外側前頭前野」という、計画や衝動を抑える役割を持つ部分が通常よりも大きくなっているとのことです。

そして、その部位がまるで過去の傷跡を今に伝えるメッセンジャーのように、幼少期のネグレクト体験と現在の依存症状を結びつけているらしいのです。

 

もちろん、人間の心や行動はそんなに単純な図式では説明できません。

絡み合う無数の要素が複雑なパターンを描いているのでしょう。

それでも、こうした研究は私にひとつの示唆を与えてくれます。

幼いころに負った心の傷は、知らない間に私たちの脳の形をそっと変え、大人になった今も行動に影響を与え続けているのかもしれない、と。

 

だからこそ、単に動画を見る時間を制限するだけではなく、心のケアや脳の健康を積極的に考えてみる必要があるのかもしれません。

日常のストレスを和らげるために軽い運動をしたり、自分が好きな音楽を静かに聴いてみたり、時には専門家に話を聞いてもらうことも良いでしょう。

スマートフォンをそっと置いて、窓の外の景色でも眺めて深呼吸する―そんな小さな時間が、いつか自分自身を守る大きな力になるかもしれませんね。

 

参考文献:

Yao, Q., Gao, Y., Liu, C. et al. The impact of childhood trauma on short video addiction: psychological and morphological correlates. Sci Rep 15, 18999 (2025). https://doi.org/10.1038/s41598-025-04020-5

 

 

紹介した論文の音声概要を、NotebookLMでポッドキャスト化してみました。あわせてお楽しみください。