「おしどり夫婦」という言葉があります。
実際のおしどりが仲睦まじく寄り添う様子から、仲の良い夫婦を指す表現です。
鳥の世界では多くの場合、一夫一妻制の「夫婦」が数年間、時には一生を通じてパートナーシップを続けます。
そんな夫婦仲が良い方が子どもたちもきっと幸せになるに違いない、と私たちはつい考えたくなりますが、今回の研究によれば、どうやらそれは人間の思い込みだったかもしれません。
研究者たちはセーシェルムシクイという小鳥を25年間にわたり追跡し、親鳥のパートナーシップが子どもたちの健康や長期的な繁殖成功(いわゆる「子孫繁栄」)に影響するかを詳しく調べました。
そのために研究チームは、子どもの時期の体調を示す「テロメアの長さ」「血液中の赤血球比率(ヘマトクリット)」「体の状態」、さらに成鳥後の「寿命」「生涯繁殖成功度」という要素に注目しました。
実際のデータを慎重に分析してみると、親鳥が長く連れ添っていようと、途中でパートナーが変わろうと、ヒナの健康やその後の繁殖成功に明確な影響は見られませんでした。
調査対象となった1109羽のヒナのうち、約75%の親鳥は翌年も同じ相手とパートナー関係を継続していました。
一方、残りの25%の親鳥は、母鳥の死(8%)、父鳥の死(7%)、両親の死(3%)、あるいは離婚(2%)といった理由でパートナーを失いました。
ただ、唯一気になったのは母親を亡くしたヒナ(33羽)のテロメアがわずかに短かったことですが、その影響がヒナの健康や繁殖成功に大きなマイナスをもたらすという確かな証拠は見つかりませんでした。
これは意外な結果です。
人間界の感覚では、安定した夫婦関係が子どもの成長に良い影響を与えると思いがちですが、どうも鳥たちにはそれほど重要ではないようです。
むしろ彼らの社会では、新しいパートナーがすぐに見つかることも多く、仲間の助け合い(協力育児)がうまく機能しているため、片親の不在によるストレスが緩和されているのかもしれません。
また、この研究はセーシェルムシクイという特定の環境で行われたものであり、すべての鳥や環境に当てはまるわけではないことにも注意が必要でしょう。
結局のところ、小鳥たちにとって夫婦関係の維持は、子どもたちの質や数よりも、親自身の生存に利益があることの方が重要なようです。
人間と鳥では家族や愛情のあり方も少し違うようで、そう思うとちょっと面白いですね。
親鳥の夫婦仲が子どもの人生を左右しないというのは、ある意味で鳥たちの逞しさの証かもしれません。
鳥の世界を通じて、人間社会の常識を少し疑ってみるのも悪くありません。
自然界から教わるべきことは、意外とまだまだたくさんあるのかもしれません。
参考文献:
Speelman F, Burke T, Komdeur J, Richardson D, Dugdale HL. Mate-switching is not associated with offspring fitness in a socially monogamous bird. Proc Biol Sci. 2025;292(2047):20250577. doi:10.1098/rspb.2025.0577

紹介した論文の音声概要を、NotebookLMでポッドキャスト化してみました。あわせてお楽しみください。