デジタルテクノロジーは脳に良いのか悪いのか?

デジタルテクノロジーは脳に良いのか悪いのか?

 

最近、私たちの生活はスマートフォンやパソコン、インターネットといったデジタル機器なしには考えられなくなっています。

しかし、「デジタル認知症」などという言葉を聞いたりすると、便利なものに頼り過ぎるあまり、私たちの脳が衰えていくのではと不安に駆られることがあります。

 

そんな疑問に、アメリカのテキサス大学とベイラー大学の研究チームが少し明るい光を当ててくれました。

研究チームは50歳以上の人を対象にした57件もの研究データ、約41万人という膨大な数を分析し、デジタル機器の利用頻度と認知機能低下の関連を調べました。

その結果、意外なことが分かりました。

コンピューターやスマホを積極的に使っている人ほど、認知機能が衰えるリスクがなんと約58%も低かったのです。

ちなみに、これは運動(約35%のリスク低減)や血圧管理(約13%のリスク低減)と比べても、かなりの効果だそうです。

 

では、なぜスマホやパソコンを使うことが脳に良い影響を与えるのでしょう?

その理由はまだ完全には分かっていませんが、ひとつの可能性として、新しいアプリを覚えたり、インターネットを使って新しいことを学んだりすることが、脳への良い刺激になるのだろう、と研究者は考えています。

例えば、新しいスマホアプリを設定したり、オンラインで料理や外国語を学んだりするのは、ちょっとした脳のトレーニングになるかもしれません。

それに、遠くにいる家族や友達と気軽にビデオ通話ができることで、交流が増し孤独感が薄れ、脳に良い刺激が与えられるというのも頷ける話です。

 

ただし、皆さんの危惧する通り、テクノロジーが完全に安全なわけではありません。

若い人たちは特に、SNSを使いすぎることで睡眠が乱れたり、不安感が増したりすることもあります。

どんなものでも使い過ぎはよくない、ということですね。バランスが大切なのです。

 

デジタル機器との付き合い方を考えるということは、つまり、これからの人生をどう生きていくかを考えることと似ています。

新しい技術に好奇心を持ちつつ、自分にとってのちょうど良い距離感を探る―そんな小さな挑戦が、私たちの脳を、そして心を、もっと元気で豊かなものにしてくれるかもしれません。

 

こうした研究の成果に目を向けながら、日常の中でちょっとした新しい挑戦を楽しんでみるのも、悪くないんじゃないかなと思うのです。

 

参考文献:

Benge, J.F., Scullin, M.K. A meta-analysis of technology use and cognitive aging. Nat Hum Behav (2025). https://doi.org/10.1038/s41562-025-02159-9

 

 

紹介した論文の音声概要を、NotebookLMでポッドキャスト化してみました。あわせてお楽しみください。