自然を楽しむということ―幸せの新しい視点

自然を楽しむということ―幸せの新しい視点

 

紹介した論文の音声概要を、NotebookLMでポッドキャスト化してみました。あわせてお楽しみください。

 

晴れた日に公園を散歩したり、休日に山を歩いたりするのは心地よいものです。

多くの人が直感的に、自然の中にいると何だか気分が良くなることを知っています。

ところが最近の研究によると、自然に触れる「回数」よりも、むしろ「どれだけ心から楽しめているか」ということが、幸福感や人生の満足度により深く関係していることが明らかになりました。

 

これまでの研究は主に、自然の中で過ごす時間の長さや頻度に着目してきました。

けれども2020年から2021年にかけて台湾で行われた社会調査は、こうした数字だけでなく、人が自然に対して抱く「気持ち」に焦点を当てました。

1800人を超える人々に、自然の中で過ごす頻度や楽しさ、そして日常の幸福感について尋ねたのです。

また気温や降雨量、空気の質など、暮らしを取り巻く環境要素についても同時に調べました。

 

その調査から浮かび上がったのは、少し不思議な結果でした。頻繁に自然の中に出かけることが必ずしも幸福感を高めるわけではなく、むしろ「自然を心から楽しむ」ことが、確かに幸福感を引き上げているということです。

一方、頻繁に自然を訪れる人がむしろ幸福感を低く感じる場合もありました。

研究者はこの点をもう少し深く探り、「自然を楽しみたい」という気持ちが現実の制約から満たされない不満につながったり、あるいは心が疲れている人が癒しを求めて自然に出かけているために、結果的に幸福感が低く見えてしまう可能性がある、と考えています。

 

また、面白いことに、気温や空気の質といった客観的な環境条件は幸福感にそれほど強く影響しませんでした。

それよりも、むしろ「自分がその環境をどのように感じているか」、例えば空気が汚れていると主観的に感じるかどうかの方が、幸福感との関連が強かったのです。

 

この研究が私たちに教えてくれる大切なことは、自然とどのように関わるか、つまり接触の「質」が重要だということです。

ただ義務的に自然と触れ合うのではなく、短い時間でも心を込めてじっくり味わうことが大切です。

スマートフォンを少し置いておいて、風の感触や木々の香り、季節の微妙な変化をゆっくり感じ取る、そうした楽しみ方を意識してみることです。

 

研究者のペイシャン・リアオ氏はこう語っています。

「自然環境で楽しめないとき、例えば天候が悪かったり不快な状況があったりすると、むしろ幸福感は下がってしまいます。だから、物理的な自然への接触よりも、その環境をどれだけ楽しめるかという感情の方が、ずっと重要なのです。」

 

忙しく日々を過ごす私たちですが、たとえ短くても、その瞬間を意識的に楽しむことで、人生が少しだけ豊かになり、穏やかな幸福を感じることができるでしょう。

 

参考文献:

Liao P, Shaw D, Chen L, Lin C. Exploring the link between subjective well-being, nature enjoyment, and physical contact with nature. J Environ Psychol. 2025;104:102617. doi:10.1016/j.jenvp.2025.102617