紹介した論文の音声概要を、NotebookLMでポッドキャスト化してみました。あわせてお楽しみください。
歳を重ねるごとに、知らず知らずのうちに薬の数が増えていく。それはどこか、気がつけば自宅の引き出しにペンが溜まっているような、そんな感覚に似ているのかもしれません。
実際、米国では65歳以上の高齢者の約40%が5種類以上の薬を服用しているという調査もあります。
家族が「あれ、おじいちゃんちょっと薬が多すぎない?」と心配するのも無理のないことでしょう。
高齢者に処方される薬の中には、副作用がかえって健康を害する場合もあるからです。
そんな問題に対して、2025年の米国老年医学会(AGS)の年次科学会で、新しい道しるべが示されました。
「代替薬リスト(Alternatives List)」というものです。
これまで高齢者の薬物治療では「AGSビアーズ基準」という、使用を避けるべき薬のリストがありました。
ただし、このリストが示すのはあくまで「避けるべき薬」であり、「代わりに何を使うべきか?」という問いには十分に応えられていなかったのです。
そこで、カリフォルニア大学サンフランシスコ校のマイケル・スタインマン教授を中心に、薬剤師、看護師、心理学者、理学療法士といった様々な分野の専門家が集い、数ヶ月に及ぶ丁寧な検討を重ねました。
その結果がこの新しいリストなのです。
不眠症や不安、アレルギー性鼻炎など、高齢者によく見られる21の症状が対象になっています。
例えば、睡眠やアレルギー対策に頻繁に使われるジフェンヒドラミン(ベナドリルなど)は、高齢者が服用すると転倒リスクが約50%増えるという研究結果もあります。
代替薬リストでは、薬を使わず認知行動療法を試したり、生活環境を整えたりといった、より安全な選択肢を紹介しています。
また、胃食道逆流症で長期間使用されるプロトンポンプ阻害薬(PPI)についても、長期使用によって骨折リスクが約25%高まるというデータがあります。
そこで代替薬リストでは、食事の内容や姿勢の工夫、食事時間の調整をまずは勧めています。
もし薬が必要ならば、ファモチジンなどのH2ブロッカーやアルギン酸入りの制酸薬を使うことを提案しています。
夜間頻尿に対しては、まず「SCREeNアプローチ」という方法で、睡眠障害や心血管系の状態、腎機能や内分泌疾患、神経疾患、他の薬の副作用など、根本的な原因を探ることが推奨されています。
薬に頼る前に、膀胱の訓練や水分の管理をする。
それでも必要なら男性には前立腺肥大症の薬、女性には膣エストロゲンを使うという選択肢が示されています。
このリストの狙いは、ただ薬を減らすことだけではありません。
患者がより健康的で快適に生活できるようにサポートすることにあるのです。
患者と医師がじっくり話し合い、一人ひとりに合った最適な治療法を選ぶ――そんな個別化医療の理念が根底にあります。
もちろん、薬を使わない治療法を説明するには手間と時間がかかります。
しかし、その時間を医療スタッフと分担したり、何回かに分けて診療を行ったりすることで負担を軽くすることもできます。
新しく生まれたこのリストが、薬とどう向き合うべきかを考える良いきっかけになるといいですね。
健康で安心な日々を送るためにも、医療者と積極的にコミュニケーションをとり続けてほしいと思います。
参考文献:
American Geriatrics Society (AGS) 2025 Annual Scientific Meeting
https://geriatricscareonline.org

