紹介した論文の音声概要を、NotebookLMでポッドキャスト化してみました。あわせてお楽しみください。
心臓は、黙々と働くタイプの臓器です。
毎日、昼夜を問わず動き続け、血液を身体の隅々にまで送り届けます。
しかし、そんな心臓でも、たまにはリズムが狂うことがあります。
これを医学の世界では「心房細動(AF)」と呼んでいます。
心房細動自体はすぐに命を脅かすものではないものの、放っておくと脳梗塞のような深刻な病気につながる可能性があるのです。
だから、心房細動は早く見つけることが大事なのですが、これがなかなか簡単ではありません。
英国リーズ大学を中心に行われた最近の研究は、まさにその「心房細動をどう効率よく見つけるか」という問いに取り組んだものでした。
世界中の32件、合計で735,542人もの参加者が関わったこの大規模な分析で、非侵襲的なデバイスを使ったスクリーニング検査が評価されました。
その結果、心房細動が新しく見つかる割合は全体で約2.75%。特に注目されたのは、血液検査で測定するNT-proBNPというタンパク質や、AFリスクスコアといった少し専門的な指標を使うと、診断の効率がぐっと上がるということでした。
NT-proBNPは、心臓が疲れたり負担を感じたりすると血液中に増える物質で、心不全などを予測する指標にもなっています。
例えば、年齢だけでスクリーニング対象を絞ると診断率はわずか0.93%だったのに対し、このNT-proBNPを用いると4.36%、リスクスコアを使うと4.79%という結果が出たのです。
最近では、スマートウォッチのようなウェアラブルデバイスもその役割を担い始めています。
腕に巻いた時計で、四六時中、心電図や心拍数をチェックできるというのは、少し前ならSFの世界でしたが、今では日常の一部となりつつあります。
また研究の参加手続きも、デジタル化することで紙の書類より参加率が高まり、実施がずっと楽になることが分かりました(デジタル69.8%、書面37.1%)。
しかし、問題もあります。
それは、スクリーニングによって心房細動がより多く診断されても、それが必ずしも脳梗塞や死亡、入院の減少につながらないということです。
スクリーニングを受けた人と受けなかった人の間で、こうした重大な出来事の発生リスクに差はありませんでした。
理由としては、スクリーニングで見つかる心房細動が、症状を感じて病院を訪れる人が持つ心房細動よりも軽症である可能性や、診断後の治療がまだ完全に定まっていないことが挙げられます。
一般的には抗凝固薬や心拍数調整の薬、場合によってはカテーテルアブレーションといった治療が行われますが、無症状の人にどの治療が最適なのか、今もなお議論が続いています。
研究者たちは今後、人工知能(AI)などを利用したさらに精密なリスク評価方法を模索し、脳梗塞だけでなく、心不全の予防や生活の質の向上といった幅広い観点でスクリーニングの効果を見ていくべきだと考えています。
私たち自身も、自分の身体に静かに耳を傾け、新しい技術や医学の進展を穏やかに見守り、じっくりと考える姿勢が大切なのだと思います。
この研究は、心房細動に限らず、医療の未来を考えるための一つの手がかりを、静かに示してくれているのかもしれません。
参考文献:
Wahab A, Nadarajah R, Larvin H, et al. Systematic screening for atrial fibrillation with non-invasive devices: a systematic review and meta-analysis. Lancet Reg Health Eur. 2025;53:101298. Published 2025 Apr 11. doi:10.1016/j.lanepe.2025.101298
