紹介した論文の音声概要を、NotebookLMでポッドキャスト化してみました。あわせてお楽しみください。
人生100年という言葉をよく耳にするようになりました。
年齢を重ねるとどうしても病気との付き合いが長くなります。
特に慢性腎臓病が進行すると、透析治療か腎臓移植という選択を迫られることがあります。
しかし現実には、移植可能な腎臓は不足しているのが大きな課題です。
ドイツの研究者たちは、「まだまだ元気な高齢の方々が腎臓を提供できる可能性はないだろうか」と考えました。
実は日本でも、生体腎移植ドナーに明確な年齢制限はなく、一般的に70歳前後が目安とされますが、高齢になるほど慎重な医学的評価が求められるため、提供できる方は限られています。
こうした現状を踏まえ、ドイツで行われたのが大規模な「ベルリン・イニシアチブ研究」です。
この研究は70歳以上の男女2,069人(平均年齢はなんと80歳!)を対象に行われました。
参加者の健康状態を腎臓提供の観点から細かく評価し、「もし大切な家族が必要としていたら、あなたは自分の腎臓を提供しますか?」という質問も行われました。
結果として、医学的に腎臓提供が難しいと判断された人は93%にのぼりました。
主な理由は、心臓病やがんの既往歴、高血圧治療、肥満、喫煙などでした。
また腎臓の健康自体も評価され、eGFRや尿中アルブミン値といった腎機能の基準を満たせなかった人も38~54%いました。
最終的に、医学的にも腎機能的にも腎臓提供が可能と判断された人は全体の5~6%でした。
さらに8年後の追跡調査では、そのうちの11~16%が腎臓提供可能な状態を維持していました。
一見少ないように感じますが、これは高齢者における健康維持がいかに難しいかを示しています。
一方で、「家族やパートナーのために腎臓を提供してもよい」と回答した参加者は73%にも達しました。
また、「死後に臓器を提供してもよい」と考える人も60%に上り、多くの方が他者のために役立ちたいという温かい心を持っていることがわかりました。
医学的に提供が可能とされた方々の特徴として、比較的若い高齢者(70代)が多く、女性や既婚者が多く、「自身の健康状態を良好だ」と感じている傾向が見られました。
ただし、実際に生体腎ドナーを増やすには、様々な課題が残っています。
例えば、ドナー候補者が健康を維持するための継続的な検査(腎機能検査や心電図、血液検査など)や医療サポート(定期的な医師の診察や健康相談)の必要性、さらにはドナー候補者の中から最終的な適合者を選ぶためにかかる経済的負担(1人の適合者を見つけるためにかかる検査費用は数十万円にも達する可能性があります)も無視できません。
高齢者からの腎臓提供はまだ課題も多くありますが、この研究は新しい可能性を示してくれました。
医学的な進歩とともに、高齢者の温かな思いが、将来的に腎臓移植を待つ人々にとって希望の光となる日が来るかもしれません。
参考文献:
Villain C, Ebert N, Glassock RJ, et al. Medical Suitability and Willingness for Living Kidney Donation Among Older Adults. Am J Kidney Dis. 2025;85(2):205-214.e1. doi:10.1053/j.ajkd.2024.07.010
