紹介した論文の音声概要を、NotebookLMでポッドキャスト化してみました。あわせてお楽しみください。
現代の暮らしというのは、便利で美味しい食べ物に囲まれています。
ハンバーガーにポテト、ケーキに炭酸飲料といった脂肪や糖分を多く含んだ食事は、「西洋型食生活」と呼ばれ、その魅力はなかなか抗いがたいものがあります。
しかし最近の研究から、このような美味しい食生活を続けていると、自分が今どこにいて、どの方向へ進めば良いのかという「空間ナビゲーション能力」が低下する可能性があることがわかってきました。
オーストラリアのシドニー大学の研究者たちは、若い成人を対象にVR(バーチャルリアリティ)技術を用いたユニークな実験を行いました。
参加者はVRゴーグルを装着して迷路の中を歩き回り、隠された宝箱の位置を覚えるという課題に取り組みました。
この迷路は、周囲の目印(ランドマーク)を頼りに宝箱の位置を記憶しなければなりません。
結果、高脂肪・高糖分の食品を頻繁に摂取する人ほど、宝箱の場所を正確に思い出せない傾向が明らかになりました。
さらに重要なことに、この傾向は参加者の体重や基本的な記憶力とは無関係であり、純粋に食生活そのものが影響していると考えられています。
この研究で用いられた「DFSアンケート」は、参加者が過去1年間に脂肪や糖分の多い食品をどれほど食べたかを調査するもので、例えば「フライドポテトを週に何回食べるか?」という具体的な質問がされました。
実験の詳細な統計結果によれば、脂肪や糖分の摂取頻度が高い人ほど宝箱の位置から遠い場所を選択する傾向があり、この相関は統計的にも有意でした(DFS総得点との相関係数:r=0.29, p=0.031)。
こうした現象は動物実験でも報告されています。
ラットを用いた研究でも、高脂肪・高糖分食を与えられたラットは空間的な記憶能力が短期間で低下することが確認されているのです。
これらの結果から、研究者は高脂肪・高糖分食が、記憶や空間認識に重要な役割を果たす脳の部位である「海馬」に悪影響を及ぼしている可能性があると指摘しています。
とはいえ、今回の研究はあくまで相関関係を示すものであり、食生活が直接的に認知機能を低下させることを完全に証明するものではありません。
しかし、食生活を改善することで空間記憶能力が回復するという動物実験の結果も報告されており、食事が脳の働きに与える影響は無視できないものです。
毎日の食事が、自分自身の脳の働きや記憶力にもつながっているかもしれない──。
美味しい食べ物を完全に避ける必要はありませんが、健康的な食事を少し意識するだけで、将来的に大きな違いを生む可能性があるのです。
小さな心がけが、脳のナビゲーション能力を保つための第一歩となるかもしれませんね。
参考文献:
Tran DMD, Double KS, Johnston IN, Westbrook RF, Harris IM. Consumption of a diet high in fat and sugar is associated with worse spatial navigation ability in a virtual environment. Int J Obes (Lond). Published online April 17, 2025. doi:10.1038/s41366-025-01776-8
