紹介した論文の音声概要を、NotebookLMでポッドキャスト化してみました。あわせてお楽しみください。
「生きた化石」として知られるシーラカンスが、インドネシアの北マルク州で初めて発見されました。
その姿は約4億年前からほとんど変わらず、深海で静かな音楽のように漂い続けている神秘的な魚です。
2024年10月、熟練したテクニカルダイバーのチームが水深150mを超える深海の探索に挑みました。
彼らが訪れた場所は、火山岩が切り立つ斜面や岩陰を作り、まるで深海が隠し持つ秘密を守っているかのような環境でした。
水温は19〜20℃と低く、シーラカンスが好むとされる条件が揃っていました。
探索中、水深144mの地点で体長約1.1mのシーラカンスに出会いました。
これまで日中は洞窟や岩陰にひっそりと身を潜めていると考えられていましたが、この個体は開けた岩の上をゆったりと漂い、背びれを立ててゆっくりと泳いでいました。
翌日、再び同じ場所で調査が行われました。
すると、水深140m付近で前日と同じ個体が姿を現しました。体表に散らばる白い斑点模様によって同一個体であることが確認されました。

連続したこの出会いは、シーラカンスがどのように深海の時間を過ごしているのか、その秘密を解き明かす重要な一歩となりました。
今回観察されたのはインドネシア固有種のスラウェシシーラカンス(Latimeria menadoensis)という種です。
1997年に初めて発見され、アフリカ種とは異なることが知られています。
これまで主にスラウェシ島周辺でしか確認されていませんでしたが、今回の北マルクでの発見により、この種が私たちの予想を超えて広範囲にわたって生息している可能性が浮かび上がりました。
シーラカンスは成長が非常にゆっくりで、生殖年齢に達するまで長い年月を要します。
ゆえに環境変化に敏感で、人間の活動による影響を受けやすい存在です。
だからこそ、正確な発見場所は今後の保護策が十分に整うまで非公開とされています。
私たちにとって、シーラカンスの発見は単なる学術的成果ではなく、深海という未知の世界との静かな対話の再開を意味しているのかもしれません。
この発見が、東インドネシアの豊かな海洋生態系を守るきっかけとなり、シーラカンスだけでなく、まだ見ぬ深海生物たちの未来を守るための確かな一歩となることを願っています。
参考文献:
Chappuis A, Hendrawan IG, Achmad MJ, et al. First record of a living coelacanth from North Maluku, Indonesia. Sci Rep. 2025;15(1):14074. Published 2025 Apr 23. doi:10.1038/s41598-025-90287-7
