子どもたちの「文字学習」:手書きとタイピングの対決

子どもたちの「文字学習」:手書きとタイピングの対決

 

紹介した論文の音声概要を、NotebookLMでポッドキャスト化してみました。あわせてお楽しみください。

 

最近では、学校の教室でもタブレットやコンピュータが席巻しているようです。

鉛筆の出番はめっきり減ってしまったのでしょうか。

昔は鉛筆を削るのにも技術が要り、切れ味の悪い鉛筆削りに泣かされたものでした。それが今や、子どもたちはタイピングで軽々と文字を覚えるようになったわけです。

これは便利なことには違いありません。

でも、これは本当に読み書きを覚えるのに最良なのでしょうか?

 

そんな疑問に答えるべく、スペインのバスク大学の研究者たちが、ユニークな実験を行いました。

協力してくれたのは、まだ文字を読めない幼稚園児50人。

子どもたちは、手書きで文字をなぞったり模写したりするグループと、タイピングで文字を打ち込むグループに分かれて、未知の文字や単語を学びました。

その結果には、はっきりとした違いが現れました。

 

文字を見て正しく発音する。

音を聞いて文字を書く。

そして正しい文字を見分ける。

この三つの能力を試したところ、手書きグループの方がはるかに優秀だったのです。

特に文字を書くテストでは、手書きグループの正解率は64.5%。タイピンググループはわずか27.7%でした。

 

さらに単語の読み書きテストでは、その差はさらに拡大しました。

手書きグループが69.2%の正解率を達成したのに対して、タイピンググループはなんと7.8%にとどまったのです。

まさに圧倒的な差でした。

 

では、なぜ手書きがここまで効果的なのでしょう?

その秘密は主に二つの理論で説明されています。

一つは「グラフォモーター仮説」というもので、手で文字を書く動作が視覚と運動の情報を脳内でしっかり結びつけ、強力な記憶を作り出すというものです。

そしてもう一つは、「知覚的変動性仮説」です。

これは手書きによって生じる文字の微妙な形の違いが、多様な視覚情報を脳に提供し、それが文字を覚えるための強い基盤になるという理論です。

一方タイピングでは、目線がキーボードと画面を行ったり来たりし、情報の統合がうまくできないため、これらの効果が十分に得られないようなのです。

 

こうしてみると、やはり昔ながらの鉛筆と紙は捨てがたいものです。

もちろんデジタル機器を完全に悪者扱いするつもりはありません。

しかし、子どもたちが読み書きの基本をきちんと身につけるまでは、手書きという古風な方法も大事にしてほしいと思うのです。

 

今回の実験を通じて、改めて「手書き」の良さを認識しました。

手で書くという行為は、単なる技術的な作業を超え、本来人間が持つ本能に根ざしているのではないかと感じさせられます。

ふと写経を思い出しました。

鉛筆を握り、一文字ずつ紙の上に記す。

その丁寧な動作の中に、人間が古くから培ってきた記憶や感覚が深く刻み込まれている気がします。

鉛筆を削るあの懐かしい感触とともに、手書きという営みをこれからも大切にしていきたいものです。

 

参考文献:

Ibaibarriaga G, Acha J, Perea M. The impact of handwriting and typing practice in children’s letter and word learning: Implications for literacy development. J Exp Child Psychol. 2025;253:106195. doi:10.1016/j.jecp.2025.106195