慢性腎臓病患者にGLP-1受容体作動薬はどのように役立つのか

慢性腎臓病患者にGLP-1受容体作動薬はどのように役立つのか

 

紹介した論文の音声概要を、NotebookLMでポッドキャスト化してみました。あわせてお楽しみください。

 

慢性的に腎臓の機能が低下した状態を慢性腎臓病(CKD)と呼びます。

特に糖尿病を併発しているとCKDが進行しやすく、心血管疾患のリスクが高まることも知られています。

近年、GLP-1受容体作動薬(GLP-1RA)は、血糖値や体重を改善するだけでなく、心臓や腎臓への良い影響が注目されてきました。

ただし、推算糸球体ろ過量(eGFR)が60 mL/min/1.73 m²未満という、腎機能がかなり低下した患者さんでも安全かつ効果的なのかは、これまで十分に明らかではありませんでした。

 

今回ご紹介するのは、2024年5月までに発表されたランダム化比較試験(RCT)を対象にした系統的レビューとメタ分析の結果です。

この分析には、eGFRが60 mL/min/1.73 m²未満の慢性腎臓病患者さん17,996名が参加しました。

研究では、GLP-1受容体作動薬を使った治療群と、薬を使わない対照群(プラセボなど)に分けて、腎臓と心血管に関するさまざまな主要な指標を比較しています。

 

その結果、GLP-1受容体作動薬を用いた群では、「腎複合アウトカム」と呼ばれる腎機能の悪化や腎不全などのリスクが対照群より15%低下しました(オッズ比0.85[95%信頼区間0.77-0.94])。

特にeGFRの低下に関しても、30%以上のリスクが22%、40%以上が24%、50%以上の低下リスクは28%低下するなど、明確な改善傾向を示しています。

また、全死亡率も対照群と比べて23%低く(オッズ比0.77[95%信頼区間0.60-0.98])、心筋梗塞、脳卒中、不安定狭心症による入院といった心血管複合アウトカムのリスクも14%低下しました(オッズ比0.86[95%信頼区間0.74-0.99])。

 

さらに興味深いことに、ヒト型GLP-1構造を持つデュラグルチド、リラグルチド、セマグルチド、アルビグルチドといった薬剤を用いた場合、これらの効果がさらに高まる傾向が見られました。

これらの薬剤を使用した研究のみの分析では、腎複合アウトカムのリスクが17%、全死亡率のリスクが30%、心血管複合アウトカムのリスクが22%低下しました。

 

ただし、副作用として消化器症状(吐き気や下痢)が指摘されており、急性膵炎のリスクについても慎重な経過観察が推奨されていますが、重篤な有害事象はむしろ少なく、慎重に経過を観察しながら使用すれば大きなメリットが得られる可能性があります。

 

このように、腎臓病と心臓病の新たな治療選択肢として、GLP-1受容体作動薬が注目されています。

これからのさらなる研究と現場での活用を通じて、多くの慢性腎臓病患者さんの健康と生活の質が向上することが期待されます。

 

参考文献:

Chen JY, Hsu TW, Liu JH, et al. Kidney and Cardiovascular Outcomes Among Patients With CKD Receiving GLP-1 Receptor Agonists: A Systematic Review and Meta-Analysis of Randomized Trials. Am J Kidney Dis. 2025;85(5):555-569.e1. doi:10.1053/j.ajkd.2024.11.013