紹介した論文の音声概要を、NotebookLMでポッドキャスト化しています。あわせてお楽しみください。
音楽に合わせてリズムをとることは、私たち人間がごく普通にしていることです。
ただ、私のようにギター教室で「リズム、リズム!」と絶えず注意される身にとっては、これが実に難しい。
いつも先生に苦笑いをされてしまうほどの「リズム音痴」ですから、とてもリズムについて語る資格などあろうはずがありません。
それでも、リズムというものには心惹かれてしまうのです。
さて、そんなリズム感ですが、人間だけの専売特許なのでしょうか?
どうやらこの疑問に対し、一頭のカリフォルニアアシカが、愉快な答えを出してくれたようです。
彼女の名前はローナン。
3歳の頃からメトロノームの刻む音に合わせて、頭を上下させる、いわば「ヘッドバンギング」のような訓練を始めました。
当初はテンポが速くなると遅れがちで、遅くなると逆に先走る、なんとも微笑ましいぎこちなさがありました(まるで教室の私のようです)。
それが12年後、15歳になったローナンは驚くほどの上達を見せていました。
実際にリズムを刻むローナンの楽しいヘッドバンギングの様子はこちらの動画でご覧いただけます。
最新の実験では、80~128 BPMといった幅広いテンポの音に対し、ほぼ完璧なタイミングで頭を動かせるようになっていました。
動きのばらつきを示す標準偏差は以前の30~50%も小さくなり、テンポ120 BPMではタイミングの誤差は平均でわずか0.04秒以下。これは大学生10人と比べても、ローナンの方がむしろ優れていたというのですから、実に驚きです。
たとえば動きの安定性においては、すべてのテンポでローナンが人間の参加者を圧倒していました。
さらに、人間の動きをシミュレーションした3万回のコンピューター実験とも比較した結果、ローナンのリズム感はなんと98%のケースでシミュレーションを超えていたのです。
このような結果は、リズムをとる能力が必ずしも人間だけの特別なものではないことを示しています。
また、人間のリズム感というものも、生まれ持った才能というよりは、経験や練習によって培われるものかもしれません。
音楽に楽しげに頭を振るアシカのローナンの姿は、動物と人間との意外な共通点を教えてくれます。
こうした研究が進むことで、生き物同士の理解が深まり、生物学的な興味もますます広がることでしょう。
これからの動物研究がますます楽しみです。
参考文献:
Cook, P.F., Hood, C., Rouse, A. et al. Sensorimotor synchronization to rhythm in an experienced sea lion rivals that of humans. Sci Rep 15, 12125 (2025). https://doi.org/10.1038/s41598-025-95279-1
