健康診断の結果は、通知表を受け取る小学生のように、いつも私たちを落ち着かない気分にさせます。
特に気になるのが「血糖値」。
糖尿病ではないとしても「少し高め」と指摘されることがあります。
日本人間ドック学会では、糖化ヘモグロビン(HbA1c)が5.5%以上の場合に保健指導の対象となるため、そう指摘されると、食事内容や運動不足について振り返ることも多いでしょう。
実は、この「ちょっと高め」の血糖値が、知らず知らずのうちに脳にも影響を与えている可能性があるという研究があります。
カナダのベイクレスト・ヘルスサイエンスとトロント大学の研究チームが行った調査によると、糖尿病でない健康な人でも、血糖値がやや高い状態が続くと、脳の特定の機能に微妙な影響を及ぼすというのです。
この研究では、20代から70代までの健康な男女146人(若年層114人 平均25歳、高齢層32人 平均68歳)を対象に、血糖値と自律神経、脳機能との関係を調べました。
具体的には、糖化ヘモグロビン(HbA1c)を測定し、心拍変動を心電図で記録し、脳内ネットワークの連携をfMRIで観察しました。
心拍変動とは心臓が一定のリズムで拍動する間の微妙な変化を指し、体の自律神経の働きを示します。
また脳内ネットワークの連携では、自律神経系を調整する脳のネットワーク(S-CAN)の機能的結合性を調べました。
結果として、血糖値が高めの人ほど心拍変動が低下し、この傾向は特に高齢者で明らかでした。
さらに、HbA1cが高い人ほど脳内のS-CANネットワークのつながりが弱まることも判明しました。
脳内ネットワークと心拍変動の連携がうまく調和しなくなっている状態で、特に女性のほうがその影響を強く受けている様子でした。
もちろん、この研究には参加者の年齢層に偏りがあったり、脳の一部領域が調査されていなかったりと、限界もあります。
「完璧な調査」と胸を張れないところが、この研究のつらいところです。
しかし、それでも「血糖値、ちょっと高め」を軽く見ることなく、脳の健康の観点からも注意することの重要性を示しています。
この研究を踏まえると、毎日の食生活や運動を意識して血糖値をコントロールすることは、身体だけでなく脳の健康維持にもつながる大切な習慣なのかもしれません。
普段のちょっとした心がけが、実は脳の働きを支えることに役立つという新たな視点を与えてくれます。
参考文献:
Yu JX, Hussein A, Mah L, Jean Chen J. The associations among glycemic control, heart variability, and autonomic brain function in healthy individuals: Age- and sex-related differences. Neurobiol Aging. 2024;142:41-51. doi:10.1016/j.neurobiolaging.2024.05.007
