小さな善意が心を動かす

小さな善意が心を動かす

 

気分がどんより沈む日は、何もかもが重力を2倍に感じるものです。冷蔵庫のプリンさえ遠い。

そんなとき、少しばかりの寄付が、そっと心の隅をくすぐってくれるかもしれません。

 

中国・深圳大学の研究チームが『Psychological Science』に発表した研究では、「1日0.01元(約0.2円)のオンライン寄付」が、うつ症状の軽減と感情の改善に役立つ可能性があると報告されました。

 

寄付といっても、顔を合わせるわけでも、誰かと話す必要もありません。

スマホで寄付ボタンをタップ。それだけ。汗も涙も不要、エプロンも要りません。

 

人のためにお金や時間を使うと幸福感が増す──これは多くの心理学研究が示してきた事実です。

しかし、うつの状態にある人にとって、他者と関わること自体が重荷になることがあります。

そんななかで研究チームは、「善意を表す行動」の恩恵を非対面で得られる方法として、少額のオンライン寄付に注目しました。

使用されたのは中国の「Tencent Charity」。

このプラットフォームを通じて、参加者は毎晩「1セントでも価値がある」と促され、寄付を行いました。

 

この研究は、うつ症状を抱える主に大学生883人を対象に、3つのランダム化比較試験で構成されました。

参加者は「2か月間、毎日少額の寄付を実施するグループ」と、「寄付なしで経過観察するグループ」に分けられました。

 

結果は、研究前の予想どおり、落ち着いた改善傾向が見られました。

寄付した人たちは、心のモヤモヤが少し軽くなり、気分も上向きに。数字にもそれが着実に現れています。

– うつ症状の改善効果量は −0.19〜−0.46 

– 感情の改善効果量は 0.22〜0.49 

– 半数以上の参加者が、うつの症状が半減、または臨床基準以下に

 

さらに、「感情のポジティブ化」が、うつ症状の改善に大きく関係していることも明らかになりました。

この“ウォームグロー効果”──誰かのためになることで生まれるあたたかな満足感──が、ここでは対面なしでも十分に働いていたのです。

 

最低額は0.01元。

しかし、実際には多くの人が任意でそれ以上を寄付していました。

ただし、効果の違いは金額よりも「寄付するという行為そのもの」によってもたらされていたことも分かりました。

重要なのは、義務ではなく、自発的な「思いやり」。誰かを支えたいという気持ちが、やがて自分自身の心を支えてくれるという構図です。

 

実際、参加者の感想には印象深いものが多くありました。

> 「たった一銭だけど、つながりを感じた」。たぶんそれは、紙ヒコーキみたいなもの。小さくても、ちゃんと誰かの心まで飛んでいく。

> 「寄付したあとは気持ちがすっきりした」 

> 「小さなことでも、人の役に立てると感じられて、人生に意味を感じた」

 

この研究は臨床的治療ではなく、若年層中心の調査でもあります。

また他の介入法(たとえばボランティアやマインドフルネス)との比較はされていません。

しかしその限界の中でなお、「非対面の向社会的行動が心を支える」という可能性を私たちに教えてくれました。

 

寄付は、誰かのためでありながら、巡り巡って自分の心にも染み込んでくる。

忘れていた小さな種が、ある日ふと芽吹いていたような、そんな静かなうれしさ。

ほんの一滴の善意が、やがて静かに心のコップを満たしていく。

そんな静かな循環が、社会を、そして私たち自身を、少しだけ軽くしてくれるのかもしれません。

 

参考文献:

Zhang, Y., Jiang, Q., Luo, Y., & Liu, J. (2025). *Can One Donation a Day Keep Depression Away? Three Randomized Controlled Trials of an Online Micro-Charitable Giving Intervention. Psychological Science36(2), 102-115. https://doi.org/10.1177/09567976251315679 (Original work published 2025)