カフェインの陰に潜んでいた、記憶力の正体

カフェインの陰に潜んでいた、記憶力の正体

 

コーヒーに関する研究が世の中には実に多くあります。

それは私自身がコーヒー好きだから目に留まるのか、それとも世界中に「コーヒー推し」の研究者がたくさんいるからなのか――いずれにせよ、このブログでもコーヒーに含まれるカフェインが健康に与えるさまざまな効果について、多くの研究を通じて触れてきました。

コーヒーには、集中力や注意力の向上、さらには心臓や血管の健康を助ける働きがあることが知られています。

そんなコーヒーが今、また新たな可能性を見せています。

 

一日の始まりに欠かせないコーヒー。

その効果は主にカフェインによるものだと考えられてきました。

しかし最近では、カフェインが体内で分解されて生じる「代謝産物」の方が重要な役割を果たしている可能性が注目されています。

その中の一つが、「1-メチルキサンチン(1-MX)」です。

 

1-MXは茶やカカオ、トマトや栗など身近な食品にも含まれる物質で、脳内での神経伝達物質の放出を促進します。

これにより脳の活動が活発になり、記憶力や脳の健康をサポートする効果があることが明らかになってきています。

 

アメリカとインドの研究者チームは、若い(生後8週間)ラットと高齢(16ヶ月)のラットを対象に、1-MXを12日間にわたって投与し、その後に迷路を使った記憶テストを実施しました。

その結果、1-MXを摂取した若いラットは39%、高齢のラットでも27%も早く迷路を抜け出せるようになったのです。

 

記憶力の向上に関係していると考えられる神経伝達物質(アセチルコリン、ドーパミン、GABA)の濃度も、1-MXを摂取したラットの脳内で有意に高まりました。

具体的には、高齢ラットでアセチルコリンが7%、ドーパミンは17%、GABAは5%増加し、若いラットでも同様の増加が確認されました。

 

また、神経保護効果を示すとされる脳由来神経栄養因子(BDNF)や、細胞を酸化ストレスから守る抗酸化物質のグルタチオン、カタラーゼの量も増加していました。

一方で、アルツハイマー病などに関連する有害なアミロイドベータの量は減少していたのです。

 

研究者たちは、1-MXが脳内で重要な神経伝達物質の放出を促し、神経細胞の健康を保つことで記憶力の向上に寄与したと推測しています。

特に、高齢になるにつれ低下する脳の機能を支える可能性が示唆されました。

 

とはいえ、まだ動物実験の段階であり、人間への効果を直接示したわけではありません。

今後の研究では、1-MXの長期摂取の効果や、人間での実証が求められます。

 

コーヒーを愛飲する私たちにとって、「1-MX」は新たな期待の星になるかもしれませんね。

 

参考文献:

Jäger R, Abou Sawan S, Orrú M, et al. 1-Methylxanthine enhances memory and neurotransmitter levels. PLoS One. 2025;20(1):e0313486. Published 2025 Jan 16. doi:10.1371/journal.pone.0313486