不安なときの「ふー」と「はー」:呼吸が脳のリズムを刻む

不安なときの「ふー」と「はー」:呼吸が脳のリズムを刻む

 

心配事があったり、不安な状況に直面したとき、私たちは気づかないうちに呼吸が浅く速くなっています。

最近の研究では、この速く浅い呼吸が、直接脳に作用し、不安やストレスのときに注意力を高めたり、素早く反応できるように助けていることがわかりました。

 

『Journal of Neuroscience』に掲載された研究では、研究チームが「あえてラットを不安な状態に置く」ために、「高架式十字迷路」という装置を使い、呼吸と脳の働きの関係性を詳しく調べました。

この迷路には安全な壁付きの通路(クローズドアーム)と、落ちそうで不安になる壁なしの通路(オープンアーム)があり、ラットは当然、安全な場所を好みます。

オープンアームにいるとき、ラットの呼吸は毎秒5〜10回(5〜10Hz)と速くなり、クローズドアームにいるときは毎秒0.5〜4回(0.5〜4Hz)とゆっくりしていました。

注目すべき点は、この呼吸の変化は動きの活発さではなく、不安という感情そのものと深く関わっていました。

 

さらに、鼻腔に挿入したチューブで呼吸を測定すると同時に、脳の嗅球(においを感じる部分)と内側前頭前野(感情や意思決定を司る部分)の活動を測定すると、呼吸と脳波がぴったり同期していることがわかりました。

この「呼吸同調振動」は、不安な状況にいるときに特に強まりました。

統計分析の結果、呼吸のリズムが脳の電気的活動に直接影響を与えており、そのタイミングを予測できることもわかりました。

 

この研究では、個々の脳波についても調べています。

特に注意力や記憶に関わる速い脳波「ガンマ波」は、呼吸が速いときほど高い周波数(約100Hz)で活発化しました。

一方、落ち着いてゆっくり呼吸しているときには、より低い周波数(約85Hz)で活動しました。

ガンマ波は、脳内で情報を統合したり、認知機能を支えるために重要な役割を果たしています。

具体的には、注意の集中や感覚情報の処理、記憶の形成など、私たちが日常生活を円滑に行うために欠かせない機能を支える脳活動です。

例えば、スポーツ選手が集中してパフォーマンスを発揮したり、試験前に重要な情報を頭に定着させたりするとき、脳内ではガンマ波が活発化しています。

つまり、呼吸のリズムを速めることで、集中力や認知能力が一時的に高まる状態を作り出している可能性があります。

 

この研究はラットで行われたものであり、人間でのさらなる研究が必要ですが、呼吸が感情をコントロールするための有効なツールであることを示しています。

深呼吸やマインドフルネス瞑想が不安を和らげる科学的な裏づけにもなります。

 

日常で感じる不安の中で、ゆっくりと意識的に深呼吸をすることは、脳のリズムを整えるシンプルで力強い方法として、役立つはずです。

 

参考文献:

Dias ALA, Drieskens D, Belo JA, Duarte EH, Laplagne DA, Tort ABL. Breathing Modulates Network Activity in Frontal Brain Regions during Anxiety. J Neurosci. 2025;45(2):e1191242024. Published 2025 Jan 8. doi:10.1523/JNEUROSCI.1191-24.2024