最近、気づけばスマホを眺めて時間が過ぎていることがあります。
私も例外ではありません。
短い動画を連続して視聴したり、目的もなくSNSをスクロールしたり。やるべきことがあるのに、つい後回しにしてしまうのです。
こうした行動は「ブレイン・ロット(brain rot)」と呼ばれ、2024年のオックスフォードの年間流行語大賞に選ばれました。
直訳すると「脳の腐敗」。取るに足らないオンラインコンテンツを大量に消費することで、知的・精神的な状態が徐々に悪化してしまう現象です。
実際のデータを見ると、アメリカの若者は1日に平均5時間以上スクリーンを眺め、237回もの通知を受け取っています。
約4分に1回、スマホが「こちらを見て」と誘っている計算です。
トロント・メトロポリタン大学の研究チームは、若者が仕事に何を求めるかをテーマにした約2分40秒の動画を制作しました。
しかし学生たちは動画全体を見ることが難しく、「長すぎる」と感じました。
そのため、動画は最短で16秒にまで短縮されました。
文化理論家ビョンチョル・ハン氏は、こうした状況を「物語の衰退」と表現しています。
かつて人々が持っていた、ゆったりと物語に没頭し空想にふけるような時間は、絶え間ない情報に対する過度な集中に取って代わられたというのです。
実は「脳の腐敗」は新しい概念ではありません。
1854年、作家ヘンリー・デイヴィッド・ソローは『ウォールデン 森の生活』の中で、「イギリスがジャガイモの腐敗病を治そうとしている間に、もっと広範で深刻な脳の腐敗を治す努力はしないのだろうか?」と嘆いていました。
100年以上前に社会学者ゲオルク・ジンメルも、刺激が多すぎる環境で脳が鈍感になる「ブレザー態度」を指摘しています。
これは、過剰な情報や刺激にさらされることで脳が疲れ、次第に感情や関心が鈍化し、周囲の出来事に無関心になる心理状態のことです。
問題の本質は、単なるテクノロジーの問題ではなく、社会的・経済的なシステム全体にあるようです。
消費主義とデジタル資本主義が絡み合い、私たちの脳や文化を徐々に侵食しているのです。
SNSのアルゴリズムは体験を画一化し、文化の多様性を損なっています。
私たちは「語り手」ではなく、「物語を売る人」に変わりつつあるのかもしれません。
スマホやSNSが生活にもたらす利便性は否定できません。
しかしその一方で、私たちの集中力や深い思考力、さらには社会の基盤である真実や信頼にまで影響を及ぼしている可能性があります。
大切なのは、テクノロジーとの距離感を意識すること。
時にはスマホを置いて、本を読んだり空を眺めたりすることが、私たちの脳に良い栄養を与えるかもしれません。
