なんだか、物忘れが増えたかも…という心配は、誰しもが感じるものです。
特にアルツハイマー病のような認知症は、できるだけ早く兆候を見つけたい。
けれども、病院で大がかりな検査を受けるのはかなり気が引けます。
ましてや自分が率先して受診するならまだしも、身内を連れていこうとすると、気まずい空気になるのも面倒です。
そんな中、自宅で手軽に「香り」を使って認知機能の状態をチェックできる、『AROMHA脳健康テスト(ABHT)』という新しい方法が研究されています。
実は、嗅覚の中枢は脳と深いつながりがあり、アルツハイマー病の兆候は記憶障害よりも前に、嗅覚を司る神経回路に現れることが知られているのです。
ABHTの仕組みはとてもシンプルで、特別な機械は不要です。
郵送されてきたカードに印刷された「匂いラベル」をこすって嗅ぎ、オンラインの質問に答えるだけです。
まるで子どもの頃の「こすると香るシール」のような仕組みです。
具体的には以下の3つのテストから構成されています。
– 香りの識別テスト(OPID):
メントールや革、石鹸など9種類の身近な香りを嗅ぎ、4つの選択肢から正しい名前を選びます。「自信があるか」「当てずっぽうか」の自信度も回答します。
– 香りの記憶テスト(POEM / OPID18):
10分間の休憩後、前半で嗅いだ9種類と新たな9種類の計18種類の香りを嗅ぎ、「これは先ほど嗅いだ香りか?」を判断します。
– 香りの区別テスト(OD):
2つの香りを連続して嗅ぎ、「同じ香りか、違う香りか」を10回判断します。
研究は、認知的に健康な人127人、物忘れが気になる人34人、軽度認知障害(MCI)の人19人を対象に行われました。
テストは研究者が観察する場合と、自宅で一人で行う場合の両方で実施されましたが、結果にほとんど差はありませんでした。
さらに、英語を話す人でもスペイン語を話す人でも結果に差がなく、言語の壁を超えて広く利用できることも証明されました。
また、この研究で明らかになった興味深い点は次の通りです。
– 年齢が上がるにつれて、認知機能が正常な人でも香りの識別や記憶、区別の能力が低下しました。
– 特に55歳以上では、軽度認知障害(MCI)の人が、健康な人や物忘れを気にする人に比べてテストの成績が著しく低い結果でした。
例えば、18種類の香りを識別するテスト(OPID18)の平均スコアは、健康な人が10.79点だったのに対し、軽度認知障害の人は7.26点でした。
これは、年齢や性別、教育歴に関係なく一貫した傾向でした。
将来的に、このテストが家庭で気軽に行えるようになれば、認知症の早期発見がより身近になるかも知れません。
自宅で、自分の脳の健康状態をチェックすることができれば、安心にもつながりますね。
参考文献:
Jobin, B., Magdamo, C., Delphus, D. et al. The AROMHA brain health test is a remote olfactory assessment to screen for cognitive impairment. Sci Rep 15, 9290 (2025). https://doi.org/10.1038/s41598-025-92826-8
