運動によるストレス解消法は注目されるものですが、なかでも「ダンス」のもつ独特な力が、科学の世界で改めて評価され始めています。
ダンスといえば、単に体を動かすだけでなく、音楽やリズム、パートナーとの交流など、さまざまな要素が一体となっている特別な運動です。
これらのそれぞれの要素がストレスを軽減し、心を癒すことが、多様な研究から明らかになってきました。
例えば、音楽を聴きながら体を動かすことは、単にリラックスする以上の効果があります。
心理学の研究によると、音楽を聴くことでストレスを感じるホルモンである「コルチゾール」の分泌が減少することが示されています。
特に「心地よい」と感じる音楽は、脳内のドーパミンという快楽を感じさせる物質を増やし、ストレスの軽減やリラクゼーションを促進すると考えられています。
さらに、リズムに合わせて動くことで、単なる音楽の鑑賞以上に深いリラックス感や幸福感が生まれ、「フロー」と呼ばれる集中した心地よい状態に導かれることも分かっています。
また、ダンス特有の「パートナーや仲間との交流」がもたらす効果も見逃せません。
ある研究では、パートナーと一緒に踊った場合、一人で踊る場合よりもストレスホルモンが大幅に減少し、より幸福感が増すことが示されました。
また、他者と動きを合わせて踊ることは、信頼感や社会的な絆を深めることにつながるという心理的なメリットも明らかになっています。
脳内では、「幸せホルモン」とも呼ばれるオキシトシンが関係し、他者との触れ合いや交流がストレスを和らげるメカニズムに重要な役割を果たしています。
さらに、ダンスの動き自体にもストレスを軽減する特別な作用があります。
ダンス特有のリズミカルな動きは、ただ身体を鍛えるだけでなく、感情表現を促し、心の解放感を高めます。
社会人や高齢者を対象にした研究では、定期的にダンスを続けることで不安やうつ症状が軽減し、全体的な精神的健康が向上することが報告されています。
また、ダンスを通じて身体への自信や自己肯定感が高まり、それが社会的なつながりやコミュニティへの帰属意識を高め、長期的な心の健康にも良い影響を与えるということです。
このように、ダンスは単なる運動にとどまりません。
音楽、リズム、そして人との交流といった要素が複合的に絡み合うことで、身体だけでなく心にも深い癒しをもたらします。
ダンスが持つこれらの効果を生活に取り入れることは、現代のストレス社会をより快適に生きるための知恵のひとつになるかもしれません。
うまく踊れない私には、ダンスがストレスになりそうなのですが…。
それはまた別のお話です。
参考文献:
Klaperski-van der Wal S, Skinner J, Opacka-Juffry J, Pfeffer K. Dance and stress regulation: A multidisciplinary narrative review. Psychol Sport Exerc. 2025;78:102823. doi:10.1016/j.psychsport.2025.102823
