音楽は認知機能や心の健康にも良い影響を与えることが知られています。
では、具体的にどう向き合えば、その「音楽の恩恵」を授かるのでしょう。
その答えのひとつになるような研究が報告されました。
東北大学の研究チームが行った興味深い研究では、65歳から74歳の音楽経験のない健康な高齢者を対象に、週に一度90分間のグループ音楽セッションを16週間実施しました。
その結果、参加者の認知機能と心理的な健康が改善したことが報告されています。
この研究では、参加者はドラム、ベースギター、キーボードの中から好きな楽器を選び、馴染みのある「上を向いて歩こう」や「レット・イット・ビー」などの曲を練習しました。
面白いのは、自宅では練習しないように指示された点です。
つまり、純粋に週に1度のグループでのセッションだけが評価の対象だったわけです。
結果として、全体の認知機能を示すMMSE(ミニメンタルステート検査)の得点が、セッション前後で28.54点から29.69点へと有意に向上しました。
これは脳の働きがより活発になったことを意味します。
また、30分後に記憶を呼び起こす「論理的記憶」テストでも、14.69点から19.62点へと顕著な改善が見られました。
つまり、楽器を演奏することで、特に言語的な記憶が良くなったのです。
さらに、心理的な面でも「活気」のスコアが向上傾向を示しました。
単純に楽器を弾くだけではなく、仲間と一緒にリズムを合わせることで、一体感が生まれ、自然と気分が前向きになるのかもしれませんね。
実は、楽器の演奏は「脳のトレーニング」として知られています。
音楽を演奏するとき、耳で音を聞き、目で楽譜を読み、指で楽器を操作するという複雑な動作が同時に行われます。
この多感覚を使った活動が脳全体を刺激し、認知機能を向上させるのです。
また、仲間と一緒に演奏することで、社会的なつながりが強まり、心理的な健康にも良い影響を与えるのでしょう。
今回の研究では16週間の比較的短い期間で効果が現れましたが、より長期間続けることでさらに大きな効果が期待できるかもしれません。
また、今回の研究は規模が小さいため、今後より多くの参加者を対象に検証することが必要です。
高齢社会がさらに進む日本で、このような楽しく取り組める認知症予防法が広がれば、私たちの未来も明るくなります。
音楽の力で、人生をもっと豊かにするヒントが隠れているようです。
参考文献:
Shinada T, Takahashi M, Uno A, Soga K, Taki Y. Effects of group music sessions on cognitive and psychological functions in healthy older adults. Front Aging. 2025;6:1513359. Published 2025 Feb 10. doi:10.3389/fragi.2025.1513359
