海洋のプラスチックごみが環境に与える影響は以前から知られていますが、近年の研究では、さらに微細なマイクロプラスチック(直径1µm以上)やナノプラスチック(1nm以上)が、人体の隅々にまで入り込んでいる可能性が指摘されています。
米国ニューメキシコ大学のMatthew Campen氏らが『Nature Medicine』誌に発表した研究では、肝臓や腎臓よりも脳に多量の微小プラスチックが蓄積していることが明らかになりました。
研究者らは約30名の死亡例から脳、肝臓、腎臓の組織を採取し、光学顕微鏡とガスクロマトグラフィー質量分析を組み合わせて微小プラスチックを詳しく調べました。
この分析方法は、従来では困難だった極めて微細なナノプラスチックの検出も可能としています。
その結果、脳組織には平均約4000µg/g(1gあたり4000µg)もの高濃度のプラスチックが検出されました。
これは前頭葉(約500g)だけで約2g、つまりビニール袋1枚分に相当する量です。
興味深い点は、2016年頃に亡くなった人と2024年頃に亡くなった人を比較すると、近年亡くなった人ほど脳内プラスチック量が増加していたことです。
性別、人種、年齢といった要因には差が見られず、唯一明確な影響を与えていたのは「死亡年」でした。
脳内で最も多かったのはポリエチレンというプラスチックで、食品保存袋やペットボトル、包装素材など、私たちの日常に深く浸透している素材です。
認知症を患っていた被験者の脳内では、このプラスチック量がさらに著しく高く、2万~5万µg/gにも達していました。
これは前頭葉だけで約10枚のビニール袋分にも相当する量です。
ただし、この高濃度のプラスチックが認知症の原因なのか、それとも認知症によって血液脳関門が弱まり、プラスチックが入り込みやすくなった結果なのかは、まだ明らかになっていません。
私たちの生活からプラスチックを完全に排除することは現実的ではありません。
しかし、できる範囲で工夫をすることで、脳内への蓄積を少しでも減らせる可能性があります。
例えば、ペットボトルを控え、再利用可能な金属やガラス製のボトルを使う、食品を電子レンジで温める際にはプラスチック容器を避ける、換気やこまめな掃除を行う、といった方法です。
これからの時代を考えると、個人の日常的な工夫だけでなく、産業レベルでの対策や代替素材の開発が必要になるでしょう。
そのためにも、まずは脳内へのプラスチック蓄積という異常な現状を直視しなければなりません。
参考文献:
Nihart AJ, Garcia MA, El Hayek E, et al. Bioaccumulation of microplastics in decedent human brains. Nat Med. Published online February 3, 2025. doi:10.1038/s41591-024-03453-1
