年齢を重ねると、どうしても眠りが浅くなったり、眠りにくくなったりすることがあります。
実際、60歳以上の高齢者の30%から48%が睡眠に問題を抱え、そのうちの約20%は深刻な不眠症状を感じているといいます。
眠剤に頼りたい気持ちもわからないでもないですが、副作用を考えると、薬以外の方法が望ましいというのが一般的な見解です。
そんな中、手軽で誰でも試せる「運動」が不眠に有効だと注目されています。
タイのマヒドン大学の研究チームは、60歳以上の不眠を抱える高齢者2170人を対象にした25の研究を調査し、運動の種類ごとに睡眠の質への影響を分析しました。
睡眠の質は、「ピッツバーグ睡眠質問票(PSQI)」という信頼性のある評価法を使って測定されています。
その結果はなかなか興味深いものでした。
特に効果が高かったのは、意外にも筋力トレーニングでした。
睡眠の質を示すPSQIスコア(点数が低いほど睡眠が良好)は、筋力トレーニングを行ったグループで平均5.75ポイント改善しました。
これは、有酸素運動(3.76ポイント)や、筋トレ、有酸素、バランス、柔軟性を組み合わせた複合運動(2.54ポイント)を大きく上回る結果でした。
一般的には、有酸素運動や組み合わせ運動が睡眠に良いと言われる中、筋力トレーニングが最も効果的だったことは少し意外です。
ただし、この筋トレが効果的だった理由には、他の運動と比べて比較的高強度で実施された研究が多かったことが影響しているかもしれません。
強度については、明確な結論が出ておらず、適切な強度設定が今後の研究課題になるでしょう。
また、有酸素運動についても興味深いデータがあります。
週に100分以上の有酸素運動を10週間以上続けたグループは、睡眠の質が特に大きく改善しました(9.01ポイントの改善)。
短い運動でも効果はありますが、睡眠の質を劇的に変えるには継続的であることがポイントです。
高齢になると、睡眠薬を使うことにも注意が必要です。
薬には副作用があり、特に高齢者では薬剤が体内に長く残ってしまうことがあるため、非薬物療法が重要です。
筋力トレーニングを始めることは、睡眠薬に頼らず不眠を改善する選択肢となります。
また、研究者は不眠症の症状ごとにも運動の影響を調べました。
その結果、筋トレや組み合わせ運動は、眠りにつくまでの時間(入眠潜時)や睡眠の効率、睡眠時間、睡眠薬の使用量の減少に特に有効でした。
ただし、夜間の目覚めや日中の機能低下の改善効果は限定的であり、これらの症状への対策は別途検討する必要がありそうです。
睡眠は人生の質を大きく左右します。
人生100年時代と言われる現代では、睡眠の質を守ることは元気に生きるための基本的な土台です。
この研究結果は、高齢者の不眠改善を目指す際に、筋力トレーニングを積極的に取り入れることを示しています。
心身の健康を守り、充実した毎日を送るためにも、軽めの筋トレを日常に加えてみるのはいかがでしょうか。
運動を通じて健康な眠りを手に入れ、気持ちの良い朝を迎えることができるかもしれませんね。
参考文献:
Pakwan Bahalayothin, Kittiphon Nagaviroj, Thunyarat Anothaisintawee – Impact of different types of physical exercise on sleep quality in older population with insomnia: a systematic review and network meta-analysis of randomised controlled trials: Family Medicine and Community Health 2025;13:e003056.
