みかんを食べると気分をあげてくれるかも知れない

みかんを食べると気分をあげてくれるかも知れない

 

オレンジやグレープフルーツなどの柑橘類を多く含む食生活は、気分の落ち込みを和らげてくれそうです。

 

32,427人の中年女性を対象とした追跡調査では、柑橘類を多く摂取するグループは、少ないグループと比較してうつ病の発症リスクが約22%低いことが明らかになりました。

この結果は、食事パターンや体格指数(BMI)などの要因を考慮しても変わりませんでした。

 

研究チームは、207人を対象とした副次研究(Mind Body Study)で、腸内細菌叢の遺伝情報解析と血液中の代謝物測定を実施し、柑橘類の摂取量と腸内細菌 Faecalibacterium prausnitzii の量に関連があることを発見しました。

F. prausnitzii は、短鎖脂肪酸などの健康維持に役立つ物質を生成することで知られていますが、この研究では、この菌の量が少ないほどうつ病のリスクが高い傾向が見られました。

 

また、男性307人を対象とした別の試験(Men’s Lifestyle Validation Study)でも、F. prausnitzii の増加が血中のセロトニンやGABA(γ-アミノ酪酸)に関連する指標の上昇と関係していることが確認されました。

これらの指標は、うつ症状を判別する精度がAUC 0.86と高いことが報告されています。

 

柑橘類と F. prausnitzii が気分やうつ病リスクにどのように影響を与えるのかについて、S-アデノシル-L-メチオニン(SAM)を合成する代謝経路が重要であることが分かっています。

SAMは、脳内のセロトニンやドーパミンなどの神経伝達物質の合成・調整に不可欠なメチル基の供与体として機能します。

一部の臨床研究では、SAMの補給がうつ症状の改善に役立つ可能性が報告されています。

 

今回の解析では、F. prausnitzii が持つSAM合成に関与する遺伝子の発現量が多いほど、うつ病のリスクが低いことが明らかになりました。

柑橘類に豊富なフラボノイドの一種であるナリンゲニンは、このSAM合成酵素の量に影響を与えており、腸内細菌がSAMを産生しやすい状態を作り出している可能性があります。

 

さらに、マウスを用いた実験では、腸内で生成されたセロトニンが迷走神経を介して中枢神経系に影響を与える可能性が示されています。

今回の研究でも、SAM合成経路が活発な場合には、大腸で神経伝達物質を分解する遺伝子(MAOA)の発現が低い傾向が確認されました。

つまり、腸内で生成される物質がセロトニンやドーパミンを適切に維持し、心の安定に関与する可能性があります。

 

これらの結果から、柑橘類を摂取する食生活が心の健康と関連していることが分かりました。

ただし、うつ病にはストレスや遺伝的要因など、多岐にわたる要素が関与しており、本研究は観察研究であるため、直接的な因果関係を証明するものではありません。

しかし、長期にわたる追跡調査や腸内細菌叢の遺伝情報解析、血中代謝物の測定といった包括的なアプローチにより、「柑橘類→F. prausnitzii →SAM産生→神経伝達物質の変動」という流れが考えられることは、重要な発見と言えるでしょう。

 

参考文献:

Samuthpongtorn, C., Chan, A.A., Ma, W. et al. F. prausnitzii potentially modulates the association between citrus intake and depression. Microbiome 12, 237 (2024). https://doi.org/10.1186/s40168-024-01961-3