経口球状炭素吸着薬の再評価

経口球状炭素吸着薬の再評価

 

慢性腎臓病(CKD)の進行を遅らせるとされる経口球形吸着炭(OSCA)AST-120という薬剤があります。

この薬剤は腎機能が低下した際に増加する尿毒素を吸着し、体内に蓄積するのを防ぐことで、透析導入の時期を遅らせることを目的としたものです。

 

実はOSCAは以前から医療現場で用いられてきましたが、近年になって大規模臨床試験での結果の相違や、使用期間・患者特性による効果のばらつきが指摘され、新たな検証の必要性が高まっているといわれています。

特に、導入前のCKD管理がその後の透析生活にどの程度影響を与えるのか、心血管イベントとの関連はどうなのか、そうした観点からOSCAの“レガシー効果”を検討しようとする動きがあります。

大規模試験では明らかな有効性が示されなかった一方、サブグループ解析では「特定の条件下でメリットがありそうだ」という結果が出るケースも報告されています。

こうした経緯から、OSCAを適切な患者に十分な期間使用した場合、透析導入後の予後や心血管イベントを改善し得るのか再評価する目的で、複数の研究が行われているのです。

 

その一例として、今回の294人を対象とした後ろ向きコホート研究があります。

98人が透析開始前にOSCAを投与された群(OSCA群)で、対照群196人と年齢・性別を合わせたうえで、透析開始後の心血管イベントの発生率を比較しました。

OSCA群全体のイベント発生率は100人・年あたり7.8件で、対照群の10.6件よりやや少ないものの統計的には有意差は認められませんでした(P=0.228)。

興味深いことに、OSCA群の中でも4か月以上投与された患者では心血管イベントリスクが有意に減少し、対照群と比べたハザード比は0.39(95%信頼区間0.18–0.84)に低下しました。

死亡も含めた複合アウトカムも0.46(95%信頼区間0.24–0.90)に抑えられ、OSCAを長期使用するほどその効果が持続する可能性が示されています。

 

OSCAは、インドキシル硫酸やADMA(非対称性ジメチルアルギニン)などの尿毒素を腸管内で吸着します。

尿毒素は血管や心臓に負担をかける要因として注目されており、これを抑制するOSCAの効果を十分な期間積み重ねることで、その後の透析生活でも心血管リスクを低減できるかもしれないと考えられています。

ただし、本研究は単施設・小規模の後ろ向き解析であるため、今後は大規模多施設試験や前向き研究が望まれています。

以前から存在する薬であっても、新しいエビデンスやデータの蓄積によって再評価が進む事例となるかも知れません。

 

参考文献:

Kweon, T., Kee, Y.K., Shin, D.H. et al. Impact of using oral spherical carbon adsorbent in predialysis chronic kidney disease period on cardiovascular outcome after dialysis therapy. Sci Rep 15, 6315 (2025). https://doi.org/10.1038/s41598-025-90779-6