高カリウム血症と慢性腎臓病(CKD)

高カリウム血症と慢性腎臓病(CKD)

 

高カリウム血症は、慢性腎臓病(CKD)の方に比較的よくみられる電解質異常です。

推計では、CKD患者の14〜20%に生じ、腎機能の低下に応じて増加すると報告されています。

カリウムは筋肉や神経の活動に不可欠ですが、過剰になると致死的な不整脈を引き起こす可能性があるため、注意が必要です。

 

CKDが進むと、尿細管でのカリウム排泄やホルモン調整が十分に働かなくなり、高カリウム血症が起こりやすくなります。

その対策として、従来はカリウム摂取量の制限や利尿薬の使用、あるいはカリウム濃度を上昇させる薬剤(RAS阻害薬など)の減量が実施されてきました。

さらに、古くから用いられてきたカリウム結合樹脂「SPS(ポリスチレンスルホン酸ナトリウム)」は、1958年に承認を得た歴史ある薬剤です。

例えば、30g服用すると平均約1.0mmol/L、60g服用すると約1.7mmol/Lのカリウム減少が得られたとの報告もあります。

しかし、便秘のほか、まれに重度の消化管壊死(とくにソルビトール配合時)などの副作用リスクが指摘されています。

 

近年、新しいカリウム結合薬が臨床で使われ始めました。

パチロマー(Patiromer)は、主に大腸でカリウムと結合し排泄を促す薬です。

大規模試験AMETHYST-DNでは、腎機能が低下した糖尿病患者(推算糸球体濾過量15〜59mL/min/1.73m^2)を対象に投与し、1年を通じて安定したカリウム低下効果が示されました。

副作用としては便秘や低マグネシウム血症(約7.2%)などがありますが、全体的には良好とされています。

 

同じく、SZC(Sodium Zirconium Cyclosilicate)は結晶構造がカリウムに選択的に結合する特長を持ち、平均2.2時間という速さでカリウムを正常化したデータが示されています(HARMONIZE試験)。

ただし、1回10gあたりナトリウムを800mg含むため、浮腫や血圧上昇への注意が必要です。

いずれの薬剤も新しい選択肢として注目されている一方、保険の適用状況や価格の高さ(アメリカの例:パチロマーが月あたり1000ドル超)により普及が進みにくい面も指摘されています。

 

健康な人には野菜や果物のようなカリウム豊富な食材が好ましい一方、CKDの方にとっては過剰カリウムのリスクがあります。

しかし、野菜や果物には食物繊維やアルカリ成分が多く含まれ、腎機能の低下や骨の健康維持に良い影響を与える可能性があるとされています。

実際、いくつかの観察研究では食事中のカリウム摂取が少ないとCKD悪化や発症リスクが高いというデータがあり、一方で明確な因果関係はまだ断定されていません。

RCT(無作為化比較試験)としては、たとえばCKDステージ4の被験者が野菜や果物を多く摂ることで血液中の重炭酸濃度が改善し、腎機能の急激な低下が起こらなかったという結果も報告されています。

 

筋肉が収縮すると細胞内のカリウムが一時的に血中へ放出され、運動中にはカリウムが急上昇します。

例えば、激しい短距離走の研究では血清カリウムがおよそ2倍に上がったという報告もあります。

しかし運動終了後にはナトリウムポンプ(Na+/K+-ATPase)が活性化され、カリウムは再び細胞内へ取り込まれます。

長期的にはインスリン抵抗性の改善やポンプ量の増加が期待されるため、慢性的な高カリウム血症予防に役立つ可能性があります。

透析中の運動ではカリウム除去が向上したとする一部研究もあり、少なくとも運動の多彩な健康メリットを考えると、医療従事者の指導のもと安全に取り入れる価値がありそうです。

 

高カリウム血症は心臓への負担のみならず、治療薬の選択や食事制限にも影響を与えます。

一方、近年はパチロマーやSZCのような新薬が登場し、RAS阻害薬やMRA(抗アルドステロン薬)を継続する支援策として大きく期待されています。

運動や適切な食事の組み合わせも含めた総合的な管理により、CKD患者の生活の質や心臓・腎臓の予後を改善しようとする流れが進んでいます。

しかし、高価な薬のコスト負担や保険適用の問題が残っており、今後は臨床試験の長期的データとあわせ、社会全体で費用対効果の議論を深める必要がありそうです。

今後も研究の蓄積によって、より多くの患者が安全に治療を受けられる環境が整うことが期待されています。