マーク・ウィルソンは「現代マジック界のウォルト・ディズニー」と称されるほどの存在でした。
1929年、ニューヨーク州マンハッタンに生まれ、幼少期は転勤の多い父親に伴って各地を移り住みました。
8歳のとき、ホテルで目にしたマジシャンの演技に強い衝撃を受け、マジックへの情熱が芽生えます。
十代になるとテキサス州ダラスのマジックショップで働きながら腕を磨き、高校卒業後は南メソジスト大学(SMU)でマーケティングを学びました。
「マジックを商品宣伝や新しいエンターテインメントとして展開できる」という発想を得たのは、この学生時代の経験によるものです。
1950年代半ば、テレビが急速に普及し始めると、ウィルソンは番組制作に挑戦し、地元局で番組を持つことに成功しました。
やがて全米ネットワークにも進出し、1960年にCBSで『The Magic Land of Allakazam』をスタートさせます。
アメリカ初の全国放送によるレギュラーマジック番組で、全98話が制作されました。
このシリーズは世界各国でも放送され、ウィルソンは“テレビで活躍した最初の偉大なマジシャン”として広く知られるようになります。
スタジオに観客を入れ、演技中のカメラ切り替えを最小限にする演出は、臨場感と信頼を重視した彼ならではの方法でした。
ウィルソンが披露したマジックはウサギから象の出現まで多彩で、水中タンクへの閉じ込めからの脱出など、大胆な演技でも注目を集めました。
アシスタントを務めた妻のナニ・ダーネルは、体を箱の中で分割されるなど数々のイリュージョンに挑み、華麗な演出を支えました。
ステージだけでなく、企業イベントや博覧会でも独創的なショーをプロデュースし、幅広い場面でマジックを披露した点も特筆されます。
1970年代にはテレビドラマの監修者として『ザ・マジシャン』など多くの番組を手掛けるなど、その活動範囲は映像作品全般にわたりました。
1975年に出版した『Mark Wilson’s Complete Course in Magic』は、カードマジックから大型イリュージョンまでを網羅する入門書として累計80万部以上を売り上げ、後に翻訳版も刊行されました。
ダグ・ヘニングやデビッド・カッパーフィールドなど、後続のマジシャンたちはウィルソンのテレビマジックの手法や教育書から多大な影響を受けたと言われています。
ウィルソンはアカデミー・オブ・マジカル・アーツの「マジシャン・オブ・ザ・イヤー」や英国マジック・サークルの「デビッド・デヴァント賞」などを受賞し、1980年には建国後初の西側エンターテイナーとして中華人民共和国で公演するなど国際的にも功績を残しました。
2021年に91歳で逝去するまで、ウィルソンはテレビ、テーマパーク、博覧会など数多くの場でマジックの魅力を伝え続けました。
彼が切り開いたテレビマジックのスタイルは今も受け継がれ、多くのファンやマジシャンにとって、想像力を掻き立てる存在として語り継がれています。
