糖尿病の患者にとって、血管の健康を保つことは非常に重要です。
その評価指標のひとつとして「足関節上腕血圧比(ABI)」があり、これは足首と腕の血圧を比べることで血管の状態を測る検査です。
ABIは、動脈硬化による末梢動脈疾患(PAD)のリスクを評価するために用いられてきました。
しかし、最近の研究では、ABIが低すぎる場合だけでなく、高すぎる場合も慢性腎臓病(CKD)のリスクを高める可能性が指摘されています。
アメリカで実施されたLook AHEAD試験では、3,631人の糖尿病患者を約10年間追跡調査し、ABIとCKDの発症リスクの関連を分析しました。
その結果、ABIが低すぎる(1.15未満)場合だけでなく、高すぎる(1.20以上)場合もCKDの発症リスクが高まることが判明しました。
具体的には、
– ABIが1.15未満(動脈が狭く、血流が悪化している)
– ABIが1.20以上(動脈壁が硬くなり、弾力を失っている)
このいずれの場合もCKDのリスクが上昇しました。一方で、ABIが1.15~1.20の範囲ではCKDのリスクが比較的低い傾向がみられました。
研究では、ABIの変動も腎臓の健康に影響を与える可能性が示唆されています。
年間でABIが0.007以上変化すると、血管への負担が増し、腎機能の低下につながる可能性があると報告されています。
さらに、足の血圧は腕よりも60~70 mmHg高くなることがあり、こうした圧力の変動が血管の負担を増やす要因となることが考えられます。
現在、ABIの測定は主に足の脈が触れにくい場合に実施されます。
しかし、高すぎるABI(1.3以上)が見逃されるケースも多く、これが腎臓病リスクの管理の妨げになっている可能性があります。
ABIが高い場合、血管の弾力が失われていても、見た目上は正常に脈が触れるため、問題が発見されにくいのです。
今後の研究では、糖尿病を持たない集団におけるABIとCKDリスクの関係や、長期間にわたるABIの変動が腎機能に与える影響について、さらに詳しく調査されることが期待されます。
また、最近注目されているSGLT2阻害薬やGLP-1受容体作動薬といった薬剤が、血管の健康を保ち、ABIの異常を防ぐ可能性があるかどうかについても研究が進められています。
血圧や血糖値、睡眠時間などと同じように、ABIにも「適正な範囲」があると考えられます。高すぎても低すぎても健康にはよくなく、そのバランスが重要というわけです。
血管の状態を「硬すぎず、柔らかすぎず」の適度な状態に保つことが、腎臓の健康維持にもつながります。
そのためには、定期的なABIの測定と適切な生活習慣の維持が不可欠といえます。
参考文献:
Puzantian H, Townsend RR. Three Ankle-Brachial Index Ranges and Incident CKD in Diabetes: A Goldilocks Perspective on the “Just Right” Range. Am J Kidney Dis. 2025;85(1):11-13. doi:10.1053/j.ajkd.2024.09.003
