体の痛みを笑いでまぎらわそうとするのは正解かも知れない

体の痛みを笑いでまぎらわそうとするのは正解かも知れない

 

冷たい水に手を浸す実験は、痛みの感じ方や耐性、心拍数などの生理学的反応を調べる代表的な方法として知られています。

アメリカ・カリフォルニア大学アーバイン校の研究グループは、このいわゆる「寒冷加刺激(cold pressor)」で生じる急性痛において、人がつい見せてしまう「笑い(正確には苦笑?または苦笑い?)」に注目しました。

確かに思い返せば、私もドアに頭をぶつけたりした時は「アイタタ…」と痛がりながら、つい笑っている気もします。

 

57人(平均年齢20.8歳、標準偏差1.50)が対象となり、手を約3.8~4.2°Cの冷水に2分間浸してもらうという条件下で、心拍数や痛みに対する主観的報告(痛みや苦痛の強さを0~100で評価)、さらにはポジティブ感情(「いまの気分」を0~4で評価)がどのように変化するかを観察しました。

 

研究チームはまず、顔の表情を動画撮影し、その筋肉の動きを自動解析ソフトウェア(Noldus Facereader)で測定しました。

その結果、36.8%(21人)の参加者が「痛みの最中に自然に笑みをこぼしていた」と分類されました。

興味深い点として、笑った人たちは笑わなかった人たち(36人)と比べて、実験全体を通して心拍数が平均して6~8回/分ほど低かったのです。

たとえば、実験の基準時(手を水につける前)の5分間でも、笑った人は平均約70回/分に対し、笑わなかった人は約77回/分という違いがありました(研究では性別などを統計的に補正しても、ほぼ同じ傾向が得られました)。

 

ただし、主観的に報告された「痛みの強さ」や「苦痛のレベル」に関しては、笑ったグループとそうでないグループで有意な差は見られませんでした。

痛み自体の評価は平均すると、おおよそ67(0~100段階)の強さと報告されていますが、笑うことが痛みを軽減したとは言いがたい結果だったようです。

また、笑うかどうかにかかわらず、冷水から手を引き上げたあとのポジティブ感情スコアに大きな違いは見られなかった一方で、「笑っていた時間の長さ」が長いほど、その後のポジティブ感情がやや高くなる傾向がありました。

 

研究者たちは「笑い」の効果について、「フェイシャル・フィードバック仮説」を参考に考えています。

笑顔になると目尻や頬の筋肉が働き、それが神経系を通じて「心拍数を抑えこむ」方向に影響を与えるかもしれないと推測しています。

先行研究でも、作為的に箸をくわえるなどして笑顔をつくるよう誘導された被験者は、ストレス課題や痛みに対して心拍数が低めに推移する傾向が確認されています。

今回の結果は「自発的な笑顔」についても、類似の効果が示唆された形といえます。

 

一方で、なぜ痛みを感じる前の段階からすでに笑っている人の心拍数が低いのかという点には、さらなる検討が必要とされています。

もしかすると、そもそも「ポジティブ感情を抱きやすい人」や「ストレスに対して比較的穏やかな生理反応を示す人」が笑いを誘発しやすいのではないか、という解釈も考えられています。

痛みが軽減したかどうかについては明確な結論は出なかったものの、「笑顔の時間」がポジティブな感情を後押しする可能性は小さくありません。

 

痛みは誰にでも起こりうる身近なストレス要因です。

今後さらに大規模な研究や、より精密な表情解析(たとえば「本物の笑顔(Duchenne笑い)」と「営業スマイル」の区別)を行うことで、「笑顔」と「痛み・ストレス反応」の関係はより立体的にとらえられるかもしれません。

心身への負担を軽くする方法は薬だけではなく、私たちが普段なにげなく行っている表情にも潜んでいると考えると、笑顔の研究には多くの可能性があるようにも思えます。

 

参考文献:

Luu, J. H., Acevedo, A. M., Pourmand, V., & Pressman, S. D. (2025). The power of smiles: mitigating pain through facial expression. The Journal of Positive Psychology, 1–10. https://doi.org/10.1080/17439760.2025.2462231