ワクチンを接種した後、どのくらいの期間、免疫が続くのかを正確に把握することは、公衆衛生戦略の立案や個別の接種計画を考えるうえで重要です。
例えば天然痘や黄熱などの生ワクチンは長期にわたる抗体反応を引き出す一方で、季節性インフルエンザワクチンや百日咳ワクチンなどは数か月単位で効果が低下しやすいことが知られています。
この違いを説明する手がかりとして、スタンフォード大学医学校の研究グループが血液中の分子マーカーを明らかにし、接種後わずか数日で免疫の持続期間を予測できる可能性を示しました。
研究チームは、まずH5N1インフルエンザワクチン(アジュバントあり/なし)を2回接種した50名の血液を最大100日間追跡し、免疫応答の大きさと持続期間を詳しく解析しました。
その結果、接種後数日で現れる血小板関連のRNA断片が、長期間にわたる抗体生成と強く関係することを確認しています。
特に骨髄に存在する巨核球の活性化が重要であり、血小板に取り込まれたRNAが体内での長期免疫維持に寄与するという仕組みです。
これを裏づけるため、研究チームはワクチン応答に関する既存データをさらに解析しました。
13種類のワクチンに関する28の研究から集められた3000超の血液検体を含むメタ解析では、820名の成人から得られたサンプルを精査し、骨髄中の形質細胞(抗体を産生する細胞)を支える指標を探りました。
続いて、異なるワクチン7種類を接種した244名のデータに対して機械学習を導入し、血小板関連の分子マーカーが繰り返し検出されるかを検証しました。
その結果、季節性インフルエンザから黄熱、マラリア、COVID-19など多岐にわたるワクチンにおいて、同じように血小板由来のRNAが高水準の抗体産生と結びついていることが示されています。
特筆すべきは、この解析を基に「接種後いつまで効果が持続するか」を早期に予測できる簡便な血液検査の開発が期待されている点です。
アジュバントを含む新世代のワクチン研究や、高齢者をはじめ免疫機能が変化しやすい集団に対する個別化接種の最適化にもつながると考えられています。
例えば従来は不溶性アルミニウム塩(アルム)が唯一の承認アジュバントとされてきましたが、近年は油中水エマルジョン(MF59やAS03)、TLR4アゴニスト、オリゴヌクレオチド、サポニン系など多様化しており、それぞれの組み合わせが免疫反応の持続性にどう影響するかが今後さらに解明される見通しです。
ワクチンの「効きめがいつまで続くか」を正しく把握できれば、接種間隔やブースター接種の時期をより合理的に設定できます。
研究者らは、この血小板由来の分子マーカーを世界中の多様な集団で検証し、検査として実用化することを目指しています。
こうした取り組みが進めば、新しいワクチン開発のスピードアップだけでなく、個々人の免疫状態に合わせた接種計画の策定にもつながるかも知れません。
参考文献:
Cortese M, Hagan T, Rouphael N, et al. System vaccinology analysis of predictors and mechanisms of antibody response durability to multiple vaccines in humans. Nat Immunol. 2025;26(1):116-130. doi:10.1038/s41590-024-02036-z
