GLP-1はもともとヒトの小腸から食事のたびに分泌され、インスリンを分泌する膵臓の細胞に働きかけるホルモンとして知られています。
それを人工的に活用した「GLP-1受容体作動薬(以下、GLP-1RA)」には、血糖コントロールだけでなく体重や血圧など複数のリスク因子を改善する作用があるとされています。
これらの作用が、腎臓や心臓といった臓器にも有益なのではないかという着想から、今回の2つの大規模試験が行われました。
FLOW試験では、2型糖尿病と慢性腎臓病(CKD)を有する3,533人が対象でした。
平均年齢66.6±9.0歳、推算糸球体ろ過量(eGFR)47±15.2mL/min/1.73m²という、やや腎機能の低下した方々です。
被験者は週1回のセマグルチド投与群とプラセボ群に無作為に振り分けられ、平均3.4年間追跡されました。
その結果、主要複合エンドポイント(腎不全の発症やeGFRの50%低下、腎・心血管死の合計)はセマグルチド群で24%減少し、心血管イベント(脳卒中や心筋梗塞など)も18%減りました。
全死亡率においても20%低下したことは特筆されます。さらに、eGFRの低下速度がセマグルチド群で緩やかになり、腎機能が長く保たれる傾向が示されました。
SELECT試験は、糖尿病のない肥満または過体重の17,604人が対象です。
セマグルチド2.4mgを週1回投与する群とプラセボ群で比較し、平均39.8±9.4カ月追跡されました。
その主要な目的は心血管イベントの発症を調べることで、セマグルチド群は20%のリスク低下を示しています。
注目すべきは、腎臓に関する複合エンドポイント(50%以上のeGFR低下や透析導入など)もセマグルチド群で22%減少した点です。
受診者の大半は腎機能が比較的良好でしたが、体重管理を通じたリスク軽減効果が示されたことは大きな意味をもっています。
このように、GLP-1RAはさまざまな要因を同時に改善する「一石多鳥」の特徴があり、肥満や糖尿病を抱える方の腎臓や心臓を守る薬として期待されています。
さらに、SGLT2阻害薬や新しいタイプの利尿薬(MRAの一種であるフィネレノン)などとの併用効果も示唆されており、従来の腎保護療法を大幅に強化できる可能性があります。
ただし、費用面の課題など、実臨床では検討事項も残されています。
今後は腎臓病のステージや併存症に応じた使い分けや、複数薬の同時併用による費用対効果を検証する研究が一層求められます。
GLP-1RAが示した腎臓保護と体重減少、心血管リスクの低下を同時にねらう機能は、多くの慢性疾患が重複する現代社会の患者を包括的に支援するうえで大変有用です。
今回の2つの試験結果をきっかけに、肥満や糖尿病という病態をより広い視点でとらえ、一人ひとりに合った複合的治療を速やかに提供する流れが加速すると考えられます。
医療現場で多職種が協力し合い、ライフスタイルや病態に合わせた医薬品を組み合わせれば、より長く健康と向き合える時代が来るのかもしれません。
心と身体にかかる負担をできるだけ減らすためにも、最新の科学的知見を活かしたアプローチが今後さらに充実していくことが期待されます。
参考文献:
Taal MW, Selby NM. Glucagon-like Peptide-1 Receptor Agonists: New Evidence of Kidney and Cardiovascular Protection From the FLOW and SELECT Trials. Am J Kidney Dis. 2025;85(1):115-118. doi:10.1053/j.ajkd.2024.08.002
