慢性腎臓病(CKD)の食事療法といえば、長年「タンパク質を控える」が王道とされてきました。
腎臓が傷むのはタンパク質の摂りすぎが原因と考えられていたためです。実際、動物実験では高タンパク食が腎臓の負担を増やし、病気の進行を早めることが確認されました。ところが最近、Carballo-Caslaらの研究(2024)によって、新たな疑問が提起されています。
この研究は60歳以上の約8,500人を最大10年間追跡し、タンパク質摂取量と死亡率を比べました。
その結果、CKDの有無にかかわらず、タンパク質を0.80 g/kg/日以上摂取する人では死亡リスクが低い傾向が示されました。具体的には、0.20 g/kg/日ずつタンパク質摂取量が増えるごとに、死亡リスクがおよそ8%下がるというのです(HR: 0.92, 95%信頼区間 0.86-0.98)。特に75歳超の高齢者ほど、その差がはっきり見られました。
(Carballo-Caslaらの研究(2024)の詳細は、以前に2024年8月15日付「高齢者のタンパク質摂取と健康:腎臓病があっても大丈夫?」をご覧ください。)
いままでの「タンパク制限」は主に腎臓への負担軽減をねらったものでした。
しかし、最新の知見では、過度に控えすぎると筋肉量の維持が難しくなる恐れや、食欲低下への懸念など、別の問題が浮上しています。
特に高齢の方が必要以上にタンパク質を制限すると、栄養失調に近い状態になりかねません。とはいえ、タンパク質を好きなだけ食べていいわけではありません。研究対象のほとんどはCKDの早期から中期にあたる人々であり、ステージ4や5のように進行したCKDの患者がほとんどいなかった点は大きな留意点とされています。また、腎臓機能の指標となる推定糸球体濾過量(eGFR)の計算式や食事調査法の違いが、結果に影響した可能性も否定できません。
一方、従来の「MDRD研究」ではタンパク制限によってCKDの進行が遅れると報告されましたが、食事アドヒアランス(きちんと守り続けること)の難しさや、進行度合いによっては期待どおりの効果が得られない場合も指摘されています。
こうした多面的な状況を踏まえると、食事指導は「すべてのCKD患者に一律の制限」ではなく、「腎臓の状態や年齢、合併症などを見きわめて調節する」方向に進んでいると言えそうです。
SGLT2阻害薬やGLP-1受容体作動薬など、新しい治療薬の普及も進んでおり、こうした薬物療法と食事療法の組み合わせによる相乗効果が期待されています。
今後はより厳密に食事内容を把握する研究や、大規模な前向き試験によって「タンパク質との正しい付き合い方」がさらに明らかになっていくかもしれません。
健康を守る上で重要なのは、必要な栄養を確保しつつも腎臓に無理をさせないバランス感覚です。これからは個々の身体状況を見きわめ、タンパク質の量や質を柔軟に調整しながら、適切なケアをめざす時代が来ているように思われます。
参考文献:
Carballo-Casla A, Avesani CM, Beridze G, et al. Protein Intake and Mortality in Older Adults With Chronic Kidney Disease. JAMA Netw Open. 2024;7(8):e2426577. Published 2024 Aug 1. doi:10.1001/jamanetworkopen.2024.26577
Brenner BM, Meyer TW, Hostetter TH. Dietary protein intake and the progressive nature of kidney disease: the role of hemodynamically mediated glomerular injury in the pathogenesis of progressive glomerular sclerosis in aging, renal ablation, and intrinsic renal disease. N Engl J Med. 1982;307(11):652-659. doi:10.1056/NEJM198209093071104
Klahr S, Levey AS, Beck GJ, et al. The effects of dietary protein restriction and blood-pressure control on the progression of chronic renal disease. Modification of Diet in Renal Disease Study Group. N Engl J Med. 1994;330(13):877-884. doi:10.1056/NEJM199403313301301
Workeneh BT, Moore LW, Mitch WE. Revisiting Protein Restriction in Early CKD: Did We Get it Wrong?. Am J Kidney Dis. Published online January 30, 2025. doi:10.1053/j.ajkd.2025.01.004
