ヒトの平均寿命は上限に達したかも知れない

ヒトの平均寿命は上限に達したかも知れない

 

外来では90歳を超える方も珍しくありません。

その元気な姿を見ると、寿命が大きく延びたことを実感します。

一方で「人生100年時代」と声高に語られますが、誰もが100歳まで生きる未来は本当に来るのでしょうか。

 

20世紀の間に、人類の平均寿命は劇的に伸びました。

衛生環境の改善や感染症対策、医療技術の進歩が背景にあります。

欧米や日本など先進国では、30年近く寿命が延びました。

しかし21世紀に入り、その勢いは鈍っています。

かつてのように10年で3歳伸びる「寿命革命」は、もはや見られません。

 

今回の研究は、1990年から2019年までの日本を含む10地域の死亡統計を分析しました。

結果は、香港と韓国を除けば寿命の延びは0.2年未満。

急速な延長は確認できませんでした。

さらに100歳まで生きられる確率は、女性で平均5%、男性で2%。「

100歳以上が当たり前」という未来はまだ遠いのです。

 

日本女性が平均寿命を1年延ばすには、全世代での死亡率を20%以上下げる必要があります。

がんや心疾患を一気に克服するほどの変化です。

現実的には極めて困難でしょう。

仮に平均寿命が110年に到達すると仮定すると、100歳到達率は70%。

122歳以上に4人に1人が生き、150歳を超える人も一定数存在する計算になります。

これは現実と大きく乖離しています。

 

数字が示すのは、寿命の限界が「絶対の壁」ではなくても、生物学的な老化を根本から変えない限り突破できないという事実です。

過去1世紀に積み重ねた延命の成果はすでに多く実現され、これから先はさらに難題が待ち受けています。

 

ただし、この知見は悲観だけを意味しません。

寿命の上限に迫ったこと自体、人類が健康と生存の条件を最適化してきた証でもあります。

これからの焦点は「何歳まで生きるか」ではなく「どう健康に生きるか」へ。

老化研究や生活習慣の改善によって、健康寿命を伸ばす道はまだ広がっています。

 

私自身も、長寿の夢より大切なのは、家族や仲間と過ごす時間を健やかに保つことだと感じます。

人生の長さよりも、その中身を豊かにする工夫こそ、今私たちが取り組むべき課題です。

 

参考文献:

Olshansky, S.J., Willcox, B.J., Demetrius, L. et al. Implausibility of radical life extension in humans in the twenty-first century. Nat Aging 4, 1635–1642 (2024). https://doi.org/10.1038/s43587-024-00702-3