透析患者の慢性疼痛に対するコーチング型プログラムの効果

透析患者の慢性疼痛に対するコーチング型プログラムの効果

 

血液透析を受けている方々のなかには、慢性的な痛みに悩まされる人が少なくありません。痛みへの対処が限られがちな腎臓病の世界で、どのような方法が役立つのかを考えた研究が、「痛みコーピングスキルトレーニング(PCST:Pain Coping Skills Training)」に着目しました。

アメリカ各地の16の学術センターと103の透析施設で集められた643人を対象に、319人がPCSTを、残りの324人が通常のケアを受けました。平均年齢は60.3歳で、女性は全体の約44.8%、糖尿病を合併している方は約6割でした。

 

PCSTは、12週間のコーチ主導型セッションが基本です。毎週1回の電話やビデオ会議を使い、1回あたり45~50分ほどかけて痛みに対処する「考え方」や「行動のコツ」を学びます。その後さらに12週間、自動音声応答(IVR)で日々の状態を振り返りながら練習を続けました。一方、通常ケアのグループには研究による追加の痛み対策は行わず、普段の通院で処方される薬やリハビリなどを続けてもらいました。

 

効果をみるため、痛みによる日常生活の障害度合いを数値化できる指標「BPIインターフェレンス」を使いました。この指標は、痛みのためにどれだけ日常生活に支障をきたしているかを測るもので、点数が高いほど、痛みのせいで動きにくい、気分が落ち込みがちといった支障が大きいことを示します。

12週間後に測定したところ、PCSTを受けたグループではスコアの改善がより大きく、両グループの差は0.49ポイントでした(マイナスが大きいほど痛みによる妨害が軽減)。同じ評価を24週後に行うと、依然として0.48ポイントの差が見られました。しかし、36週後では0.34ポイントとやや差が縮まったため、長期的なケアの形を考える必要があると考えられます。

 

 

さらに、BPIインターフェレンスが1ポイント以上改善した人の割合は、PCST群で50.9%、通常ケア群で36.6%でした。痛みの強さや気分に関わる指標(うつ、不安、生活の質など)でもPCSTが有効であることが示されました。これらの結果から、電話やビデオを使ったコーチング形式の非薬物療法は、透析患者の生活をより楽にできる選択肢の一つといえます。

 

薬を使う場合には副作用が心配になることが多いですが、PCSTのような認知行動療法は大きなリスクが少なく、長期的にも続けやすいという利点があります。痛みで日常が制限されがちな状況に対して、このようなアプローチを取り入れることは、生活の質を高めるうえで有望です。

研究チームは今後の導入コストや現場での実施体制などにも着目しており、透析患者におけるケアの幅が広がる可能性があります。痛みをうまく乗り越えられれば、透析と共存する日々がより穏やかになるでしょう。

 

参考文献:

Dember LM, Hsu JY, Mehrotra R, et al. Pain Coping Skills Training for Patients Receiving Hemodialysis: The HOPE Consortium Randomized Clinical Trial. JAMA Intern Med. Published online December 30, 2024. doi:10.1001/jamainternmed.2024.7140