高齢者の運転と心の健康:うつ病が運転に与える影響

高齢者の運転と心の健康:うつ病が運転に与える影響

 

近年、高齢ドライバーによる交通事故のニュースを耳にすることが増えました。高齢化社会が進む中で、高齢者の安全運転は私たちにとって大きな関心事です。

実は、高齢者の運転能力に影響を与える要因の一つに、「心の健康状態」があります。今回は、高齢ドライバーの運転行動と うつ病 の関係を調べた研究結果をご紹介します。

 

うつ病が高齢者の運転に与える影響とは?

この研究では、65歳以上の高齢ドライバー395名を対象に、 大うつ病性障害(MDD) と呼ばれるうつ病と、日々の運転行動との関連を2年以上かけて追跡調査しました。

MDDと診断された85名と、うつ病のない310名を比較した結果、MDDのある高齢ドライバーは、そうでないドライバーに比べて、以下のような特徴が見られました。

  • 急ブレーキや急ハンドルなどの危険な運転が増加
  • 自宅から遠くまで運転する傾向
  • 運転パターンが予測しにくい

一方、うつ病のない高齢ドライバーは、時間の経過とともに運転範囲が狭まり、より安定した運転パターンになる傾向がありました。

 

なぜうつ病が運転に影響するのか?

研究者たちは、高齢者が自発的に運転状況を調整する「セルフ・レギュレーション」がうまく働かないケースとして、MDDが一因になりうると指摘しています。

うつ病になると、注意力や判断力が低下し、状況の変化に対応することが難しくなります。また、自分の運転能力を過信したり、逆に過小評価したりする傾向もみられます。

 

高齢ドライバーの安全運転のために

これらの結果から、高齢のMDD患者には、早めのうつ病の検査と運転技能の評価を組み合わせたサポートが重要であることが分かります。

高齢者が安全に運転を続けるためには、医療機関だけでなく、家族や地域の協力も必要です。運転は、買い物や通院など、日常生活を送る上で欠かせないものです。心身の状態に配慮し、高齢者が安心して運転を続けられるような環境づくりが大切です。

 

注釈

  • 大うつ病性障害(MDD): うつ病の一種で、気分の落ち込みや意欲の減退、不眠などの症状が続く状態。
  • PHQ-9スコア: うつ病の重症度を測るための尺度。

 

参考文献:

Babulal GM, Chen L, Trani J, et al. Major Depressive Disorder and Driving Behavior Among Older Adults. JAMA Netw Open. 2024;7(12):e2452038. doi:10.1001/jamanetworkopen.2024.52038