COVID-19の後遺症に悩む人々にとって、症状緩和の糸口になるかも知れません。
イスラエルのシャミール医療センターで行われた臨床試験によると、高圧酸素療法(HBOT)が、ブレインフォグ、疲労感、精神的な不調、痛みの干渉など、COVID-19の後遺症の代表的な症状を改善する可能性があることが示されました。
この研究では、COVID-19の後遺症に悩む73名の患者を対象に、HBOTの効果を検証しました。
患者は2つのグループに分けられ、一方のグループ(37名)はHBOTを受け、もう一方のグループ(36名)は偽治療群として通常の酸素を吸入しました。
治療は2ヶ月間、週5回実施されました。
HBOTを受けた患者群では、注意力や実行機能、つまり計画を立ててそれを実行する能力が大幅に改善されました。
HBOT群では全体的な認知機能のスコアが平均5.8ポイント向上し、偽治療群の2.4ポイントの向上を大きく上回りました。
また、注意力と実行機能のスコアも、HBOT群ではそれぞれ4.6ポイント、5.6ポイント向上し、偽治療群との間に有意な差が見られました。
さらに、エネルギーレベルや睡眠の質、精神的な症状(うつ、不安、身体化)、そして痛みの干渉に関しても改善が確認されました。
HBOTを受けたグループは活力の向上(効果量0.522)、睡眠の質の改善(効果量-0.48)を示し、抑うつや心身症状、不安のスコアは大幅に改善しました。
特に、抑うつのスコアは効果量0.636という顕著な変化を示し、痛みの干渉も効果量0.737で改善されました。
HBOTの主な効果は以下の通りです。
* 認知機能の改善: 全体的な認知能力、注意、実行機能が向上。
* 精神症状の改善: 抑うつ、不安、心身症状の改善が確認。
* 疲労感の軽減: エネルギーの向上や疲労感の軽減が観察された。
* 睡眠の質の向上: 睡眠の質が改善され、不眠が緩和された。
* 痛みの干渉の軽減: 日常生活における痛みの影響が減少した。
これらの結果は、HBOTが脳の血流を改善し、神経可塑性(神経が新たな情報に適応する能力)を高めることで、COVID-19の後遺症の症状を軽減する可能性を示唆しています。
MRI検査でも、血流の増加や脳の微細構造の変化が確認されており、この治療が患者に新たな希望をもたらす可能性があります。
もちろん、HBOTがCOVID-19の後遺症に対する万能な治療法であるとはまだ断言できません。
しかし、今回の結果は多くの患者にとって非常に有望であり、さらなる研究によって、その有効性と安全性が確認されることが期待されています。
参考文献:
Zilberman-Itskovich S, Catalogna M, Sasson E, et al. Hyperbaric oxygen therapy improves neurocognitive functions and symptoms of post-COVID condition: randomized controlled trial. Sci Rep. 2022;12(1):11252. Published 2022 Jul 12. doi:10.1038/s41598-022-15565-0
