「お父さんがやった!」 6歳の少女の叫びは、法廷に衝撃を与えました。母親の殺人事件の唯一の目撃者である彼女の証言は、果たしてどれほど信頼できるのでしょうか? 幼い子どもの証言は、しばしば真実と虚構が入り混じり、その真偽を見極めるのは容易ではありません。
6歳の少女が、母親の殺人事件の目撃者として、「お父さんがやった」と警察に証言したとします。
このような幼い子どもの証言は、一体どれほど信頼できるのでしょうか?
実は、法律専門家たちの間でも、この問いに対する答えは一致していません。
スウェーデン、ノルウェー、オランダでは、年齢と証言の信頼性に関する調査が行われました。
この調査では、裁判官、弁護士、警察官など102名の法律専門家に、6歳と22歳の証人が母親の殺人を目撃したという架空の事件を想定し、証言の信頼性を評価してもらいました。
証言は、自発的なものと家族からの質問を受けて行われたものがあり、専門家たちはそれぞれの信頼性を評価しました。
調査の結果、法律専門家たちは、6歳の証人の証言について、「誤った記憶である可能性が高い」と判断する傾向が見られました。
特に、6歳の証人が祖母と話した後に証言した場合は、信頼性が低いと評価される傾向がありました。
一方、22歳の証人の証言は、誤った記憶の可能性が低いと評価されることが多かったです。
このような判断の背景には、「子どもは大人よりも誤った記憶を作りやすい」という一般的な認識があると考えられます。
しかし、心理学の研究では、「発達的な逆転効果」と呼ばれる現象が知られています。
これは、年齢を重ねるにつれて、自発的に誤った記憶を作り出す可能性が高くなることを意味します。
言い換えれば、幼い子どもは必ずしも誤った記憶を作りやすいわけではなく、状況によっては、大人の方が記憶を歪めてしまう可能性があるということです。
この調査から、法律専門家たちにこの知識が十分に浸透していない可能性が示唆されました。
法律専門家たちは、6歳の証人の場合は記憶の専門家の意見を参考にすべきだと考える一方、22歳の証人の場合は、その必要性を感じない傾向がありました。
年齢に関係なく、記憶の専門家の助言は、偏見をなくし、公正な判断を下す上で重要です。
この研究は、法廷において、証人の年齢に基づく偏見が存在する可能性を浮き彫りにしています。
証言を評価する際には、年齢に対する固定観念を捨て、記憶の専門家の助言を積極的に活用することが重要です。
記憶の信頼性を正確に評価することが、真実の追求において不可欠であり、適切な司法判断を下すための基盤となります。
研究結果の要点
- 6歳の証人の証言は、法律専門家により「誤った記憶の可能性が高い」と評価される傾向が強い。
- 祖母との会話後の証言は、自発的な証言と比較して信頼性が低いと判断されがちである。
- 記憶の専門家の意見は、6歳の証人に関しては有用と考えられるが、22歳の証人についてはそれほど重視されない傾向がある。
- 発達的な逆転効果により、大人も特定の状況下では誤った記憶を形成しやすい場合がある。
参考文献:
Houben, S.T.L., Otgaar, H., Granhag, PA. et al. Knowledge of legal professionals about age trends in false memory propensity: a vignette study. Sci Rep 14, 29687 (2024). https://doi.org/10.1038/s41598-024-80835-y
